平和に行きましょう。

5月、また会いたかった、けど(冬樹視点)


5月、また会いたかった、けど(冬樹視点)


俺は何だかあの慶人さんという人が気になっていた。

父さんの話では雅さんは、慶人さんが生まれた時には一人暮らしをしていたし、父さんが居候をやめた(追い出された)時から雅さんは実家にあまり帰ってない。

それは慶人さんが3歳くらいの時で、あまり雅さんとの記憶がないんじゃないか、と。

でも、それであんなに毛嫌いする??

なんか、気になる。

また、会いたい。
また会って、今度はちゃんと『慶人さん』って人を見つめたい。


あれ?

なんでだ?


なんで、こんなに、気になってるんだろう。


「じゃあ、私の分もお願いね」

「んー、じゃあ、楽しんでこいよ」

「うん!」

5月の休みのある日、妹の洵菜は友達と遊びに行く予定で、でもそろそろギターの弦を買いたいけど、と悩んでいたから、俺もベースの弦買いたいからついでに行ってくると約束した。

妹はウキウキしながら家を出ていった。

それから俺はいつもの楽器屋に向かう。
相棒を背負って。

ーーガーッ

店の自動ドアが開く。
中に入る。
そして、中にある人物を見つける。

「あーーーーっ!!!」

「?!」

あの人、慶人さんだ。

「慶人さん!!」

俺は慶人さんの元に駆けていく。
嬉しい!嬉しい!嬉しい!!

また会えた!!

「……なんで俺の名前知ってる」

でも、慶人さんは怪訝な顔をする。
まあ、そりゃ知らないガキにいきなり名前呼ばれたら嫌だよな。

「父さんに聞いた。うちの父さん、アンタの従兄弟だから」

「あんな不幸の塊みたいだった人がね」

「……覚えてんの?父さんがアンタの家出た時、アンタまだ3歳くらいだったって聞いたけど」

父さんには両親がいない。
父さんの母親は自殺、父親はばあちゃんも誰か知らないらしい。
つまり、俺のじいさんは強姦魔だった。
だから父さんは母方の叔父である人の、つまりは雅さんと慶人さんの父親に預けられていた。

でも、父さんは父さんが高校の時にその人からも切り捨てられた。

その当時、慶人さんは3歳くらいらしい。

「微かに覚えてる」

「でも、母さんに出会って変わったって言ってた」

「よっぽどいい女なんだろうな」

そこで、慶人さんは、じっと俺の顔を見る。

「……お前の母さんに兄弟いるか?」

「え?双子の弟いるけど」

「秋斗って名前か??」

「秋斗さんの事も知ってんの?」

ふっと、バカにした笑い方。

「……どうせろくでもない女なんだろ」

「は?」

「男なら誰でもよかったんじゃね?うちの兄さんをゲイにした男の姉だし」

カッと頭に血が登る。
俺はつい手が出た。

ーパァンッ

「……っ?!」

「ふざけんな。母さんや秋斗さん事何もしらないくせに……!アンタはあんなに最高に優しい雅さんの弟じゃねーわ!!」

ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!!

母さんは父さんしか知らないって照れながら洵菜に言ってた!!
秋斗さんだって雅さんしかいらない!!
あの人たちが、どれだけお互いを想ってるのかは俺がよく知ってる!!

俺に、入る場所なんてないんだよ……。

それくらい、あの人たちは……。

俺は虚しくて悔しくて腹立たしくて、店を飛び出そうとして、弦を買い忘れたことを思い出して、乱暴に取って会計して、また飛び出す。

もう会いたくない。

あんな人、雅さんの弟じゃない。


でも、


また会いたいよ……。


あんたを、暴きたい。


ーつづくー

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