平和に行きましょう。
7月、家に招待する。そして、新たに芽生えた恋を自覚する(冬樹視点)
7月、家に招待する。そして、新たに芽生えた恋を自覚する(冬樹視点)
あれから少し練習を観てもらってから、俺達は自宅に向かう。
閑静な住宅街にある一軒家は父さんが莫大な印税をもらってる事から、結構立派だ。
この近くにはかずなやなずな姉の姉妹が暮らす一軒家が建っている。
「めちゃくちゃでけぇな……」
「まあ、父さん結構当たり出してるから」
「作詞してんだっけ?」
「そー!父ちゃんは自分は凡人だって言うけど凡人はこんな売れないからなー」
春風は、あのアーティストのあの曲とか、あのアーティストのあの曲も父ちゃんが作詞したんだよ!すげくない??と大ヒット曲のタイトルを挙げていく。
すると、慶人さんが、知ってる曲ばっかだわ。すげぇ……と驚いていた。
俺達は鼻が高い。
「「「「ただいまー!!」」」」
「お、おじゃまします……」
俺達が広い玄関に入ると、慶人さんは続いて遠慮がちに入ってくる。
「あ、慶人さん、犬は大丈夫ですか?」
「え、犬飼ってんの?いいな。俺犬好きだよ」
洵太の問いかけにウキウキした様子の慶人さん。
可愛いわ、アンタ。
んん?年上のお兄さんに可愛いってなんだ??
俺が疑問符を飛ばしているとリビングの扉が開き、立夏が飛び出てきて俺達の足元ではしゃぐ。
慶人さんは、「うお、ちいせぇ!!可愛い!!」とテンションを上げる。
だから、アンタが可愛いわ。
いや、だから、なんでだ。
「おかえり。あ、慶人くん、久しぶりだね。いらっしゃい」
「お、お久しぶりです……」
父さんがリビングから顔を出してくる。
何年かぶりの再会に、父さんはニコニコしていたけど、慶人さんはガチガチに緊張していたようだった。
「もう夕飯できるから、先に手洗っておいで」
「「「「はーい」」」」
「あ、は、はい」
俺達は洗面所に向かい、手を洗いに行く。
ぎゃあぎゃあ言いながら順番に洗ってると慶人さんが口を開く。
「あの人、ホントに玖木洵?」
「え?そうだよ?」
「そんなに違うんですか?」
「全然違う。あの人、俺が最後に見た時、今にも人生投げ出しそうな顔してたし」
でも、なんとなく父さんの左手首のリストバンドの下にある沢山の傷を見ると、そんな時期があったんだろうなと思う。
でも、俺達は、基本おおらかで、明るくて、優しくて、怒ると少し怖い、そんな父さんしか知らない。
「……変わったのか」
それに比べて、俺は……と慶人さんが呟く。
抱きしめたいと、思った。
安心させてあげたい。
大丈夫、俺がいるよと、言いたい。
「おっ、そいつが雅の弟??めちゃくちゃ似てんな!」
母さんがダイニングテーブルに料理を並べながら慶人さんに笑いかける。
慶人さんは一瞬顔をボッと赤らめた。
面白くない。
……なんで?
「私は玖木春樹。そいつらのかーちゃんだよ!」
「あ、は、はじめまして!慶人です。俺、«sins»の大ファンで……」
「マジ聴き込んでるらしいよ!」
「春風!!」
狼狽える慶人さんに、母さんは、あはは!と楽しそうに笑う。
「嬉しいな。雅にはいつも世話になってるし。あ、座って?食べようぜ」
「は、はい」
「めしー!!」
「春風五月蝿いよ。なんでお前はいつもそんな五月蝿いの。慶人くんに笑われるよ?」
わいわい言いながら夕飯を食べていく。
今日は炊き込みご飯に、鶏むね肉の梅しそ巻きとポテトサラダと、コンソメスープだった。
母さんの料理はどれも美味い。
そんな母さんに近づいて、追い越したくて、だから、俺は料理を極めたい。
誰かのために、誰かの笑顔のために料理を作りたい。
「春樹さん、料理上手いんすね」
「そう?まあずっと自炊してたし、母ちゃん歴ももう15年くらいだからな」
「でも、冬兄さんも上手いんです、料理」
「え?!」
いや、洵太、何故俺の話をした。
てか、
「なんだよ、その意外そうな顔」
「いや、めちゃくちゃ意外。お前、家の手伝いとかしなさそうだし」
「いや、洵菜の方がしない」
「母さん!!」
怠惰さを母さんに暴露されて、顔を真っ赤にする洵菜に、母さんは舌を出した。
いや、そんな反応するくらいなら手伝えよ。
ホントにぐーたらな妹なんだから。
「慶人くんは自炊はあんまりしないの?」
「あー、あんまり得意じゃなくて」
なんか作って、あげたいな。
俺が慶人さんに熱視線を送っていた事に気づいたのは、母さんだけだった。
「……でも、洵さん変わりましたね」
「自分でも思うよ。あんなに死にたがってたのに、今は幸せで、精一杯、家族と生きていきたい」
父さんがどんな苦しみを味わっていたかなんて父さんしか知らない。
でも、そんな苦しみを和らげてあげれてるなら、俺達は幸せだ。
母さんは優しく微笑んでいた。
「……俺も、洵さんみたいに、変われるんでしょうか」
「変われるんじゃね?」
「ママ?」
母さんは何か悪戯っ子のような悪い微笑みで1回俺を見る。そして、慶人さんを見る。
???
父さんもなんで母さんがそんな自信満々なのかわかってない。
「まあ、愛しい人と愛し合えたら変わるもんだよ。私もパパもそうだったし」
「愛しい、人……」
母さんも父さんも穏やかに笑う。
慶人さんは復唱してから、ふと、俺を一瞬見て、目をそらす。
???
なんなんだ。
なんか慶人さん、顔赤い??
「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
夕飯を食べ終えて、しばらく話をしてから、慶人さんは「もう帰ります」と立ち上がる。
「家何処?送っていくよ」
「いえ、近くなんで」
「まあまあ。車で帰った方が安全じゃない?慶人、可愛いから襲われるかもだし」
「はあ?!!」
母さんのトンデモ発言に慶人さんは困惑する。
そして、「こんな髭面誰も襲わないでしょう」と言うと母さんに「でも、似合ってないぞ?」と言われてしまう。
父さんは母さんの発言に呆れていた。
「なんで慶人さん、髭伸ばしてんすか?」
「え、別に……」
「私は、童顔だから髭ないと未成年に見えるに1票入れるな」
「私もー」
母さんと洵菜の回答が正解だったのか、「う"っ……」と詰まる慶人さん。
童顔が悩みとか可愛いよな。
だから、可愛いって、なんだ。
結局、父さんに押し切られて、車で送って貰うことになった慶人さんは俺に「またLINEする」と言って、帰った。
その後、部屋で寛いでいた時だった。
「冬樹、ちょっといい?」
「うん、何?」
母さんが楽しそうに笑いながら部屋に入ってくる。
一体なんだろう。
なんか、少し、嫌な予感。
「お前、慶人の事好きになった?」
「……え??」
俺が?
慶人さんを?
……好き?
ボッと顔が熱くなって、赤くなる。
もしかして、今までの変な感情は、もしかして??
慶人さんを、俺は、好きなの??
「そっか。よかった。まだ望みあんじゃん」
「え、や、あの、母さん」
「母さんは雅の事想ってるより幸せだって言ってんの」
「!!!」
それも、知られていた。
どうしても、忘れられなかった、あの人。
物心着いた頃から好きな人。
でも、今は、
俺は……。
「……でも、慶人を雅の代わりにしちゃダメだぞ」
「違う!!俺は『慶人さん』が……」
慶人さんだから、好きに、なったんだよ。
母さんは優しく微笑んで、「じゃあ、応援するから」と俺の頭を撫でた。
ーつづくー
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