好きって言わないで


好きって言わないで

「おい、名前明日暇か?」

訓練終わりに突然リヴァイ兵長に明日の予定を尋ねられる
明日は訓練がお休みの日だ

「はい、特に予定はありません」
「じゃあ、街行くぞ。空けとけ」

はい、と答えるとリヴァイ兵長はスタスタ自室に帰ってしまった
なんだろう?
もしかしてデートってやつかな、と思いながら眠りについた

「おはようございます、兵長」
「あぁ」

各々私服を着て街に出かける

「何か食いてぇもんはあるか?」
「これと言って特にありません。兵長のお勧めでお願いします」

お昼を食べてアクセサリーの店を見に行くと言われ、兵長に付いていく

「気に入ったのがあれば買ってやる」
「えぇ?買って頂く理由がありません。自分で買います」

何故か太っ腹な兵長に戸惑いつつ、一つの髪飾りに目が止まる
繊細な銀細工が綺麗な髪飾りだったが、兵長に買ってもらう訳にも行かず、見なかったことにする

そんな休みが三回続いた
兵長お気に入りの紅茶を出すカフェでお茶して、買い物して、夜は軽くお酒を飲んで解散

四回目のデートの時、帰り際に兵長に部屋に入ってもいいかと問われた

「紅茶でいいですか?」
「あぁ。名前話がある」
「はい、何でしょう?」
「薄々勘づいてるとは思うが、俺はお前が好」
「止めて下さい」

兵長は訳が分からないと言った感じで私を見る
それに気付かないフリをして続ける

「私はリヴァイ班の中でも一番討伐数少なくて、なんの取り柄もなくて、弱っちい兵士なんです。いつ死ぬか分からないんです。だから、生きたいと思わせないでください。休日ももうご一緒しません」

俯きながら一気に喋ると兵長は分かった、と言って部屋を出ていった
本当は私も兵長を好きって言いたかった
でも、本当に私はいつ死ぬか分からないのだ
下手な希望なんか持ちたくない

次の日からは忠実に上官と部下の役目をこなした
あれは夢だったんだと思えば悲しくもならなかった
そして私は相変わらず立体機動装置の扱いが下手で、リヴァイ班の皆に教わりながら訓練した

そんな中行われたエレンを伴う壁外調査
女型の巨人に攻撃され、私は気を失った

次に私が目を覚ましたのは三日後の朝、だったらしい

「起きたか」
「兵長?おはようございます」
「死んだかと思って焦ったじゃねぇか」

そこで日付けを確認して三日経っているのに気付く

「兵長?班のみんなは?」

立ち上がろうとすると右足が痛んだ
よく見ると右足が固定されていて、頭に包帯が巻かれている
足を折って頭を打ったのは容易に想像出来た

「うちの班は名前以外全滅した。女型の巨人も捕まえたが、尋問できる状態じゃない」
「そんな…」

優しくて面白かったリヴァイ班の面々を思うと涙が溢れてきた
するとベッドに座ったままの私を兵長が抱き締めた

「止めて下さい。優しくしないで下さい」
「うるせぇ。黙って泣いてろ」

拒絶の言葉は役に立たず、私はしばらく兵長に抱き締められながら泣いていた
泣き切った所で兵長がお茶を入れてくれた

「飲め。リラックス作用のあるハーブティーだ」
「ありがとうございます」

目が腫れぼったくなりながらお茶を飲み、少しだけ落ち着く

「やっぱり言わせろ。名前が好きだ。俺の物になれ」

兵長は真っ直ぐ私を見つめると小箱と一緒に一回は止めてくれた告白をした
兵長の有無を言わさぬ雰囲気に負け、小箱を開けるとあの髪飾りが入っていた

「何で…?」
「お前の事なら見れば分かる。で、返事はどうなんだ?」
「お断りします。これも返します」

箱を兵長に押し付けると首元の襟を捕まれ、キスされた
若干パニックになり、胸を押し返そうとするが、兵長の体はビクともしない

そのまま舌が侵入し、逃げ腰な私の舌を捉えられる

「んっ、ふっ」

息が苦しくて兵長の胸を叩くと無視された
たっぷり口内を弄るとようやく兵長は唇を離した

「いい加減認めろ。俺が好きだろ?」
「兵長なんてきら…」

どうしても嫌いと言えなくて俯いてしまう
分かってる
私も兵長が好きだ
キスも髪飾りも嬉しかった
でも、私はいつ死ぬか分からないのだ

「死ぬのが怖ぇってんなら守ってやる。だから、いい加減素直になれ」
「守られるのは嫌です。私は私で強くなります」

ようやくそれだけ言うと兵長は珍しく微笑みながらもう一度小箱を押し付けてくる

「好きだ、名前。俺と付き合え」
「はい、私も好きです、兵長」

認めざるを得ない状況にされ、私は素直になった
好きだと言えばストン、と気持ちが落ち着いてやっぱり私は兵長を好きなんだと実感した

「次の休み、空けとけ」
「怪我が治るまではお手柔らかにお願いします」

ふふ、と笑うと私は自分から兵長にキスをした
いつ死ぬか分からないけど、兵長と一緒なら大丈夫な気がした

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