道路が渋滞していて全く進まないのをおかしく思った遙が検索をかけて素早く情報を集めると、火事に集団食中毒、異臭騒ぎが起こっているらしかった。「交通規制ばっかじゃねえか…!」とゲームをしていて全く知らなかったのを悔やみながら、頭に叩き込んだ裏道を抜けて杯戸中央病院の裏側駐車場に車を止めた。
すぐに車を出て入口まで走って行くと、数人の大人たちと一緒にいるコナンの姿を発見した。その中に金髪の美しい髪色をした、いつぞやに哀のことで話をしたことのあったジョディ・スターリング捜査官の姿を見つけ、遙は思わず「ジョディさん!」と手を上げて叫んだ。
「?……遙じゃない!」
「ジョディさん!そっか、FBIだもんね!こんばんは!」
「あなたどうして…具合でも悪いの?」
「いやそんな訳ないですよ!俺めっちゃ元気なの知ってるじゃないですか!」
「じゃあ、どうして……って、あ!まさか…あなたが!?」
「コナンくんのワトソンなの!?」と驚きながら言われた言葉に、遙はそれまで笑顔だった表情を顰めていじけたように「そんな驚かなくてもいいじゃん…」と呟いた。その様子に、コナンは困ったように短く笑ってジョディに「ジョディ先生は知らないからね」と軽く肩を竦めて言葉を続けた。
「遙は、これでも結構すごいんだよ。情報を集める能力も普通の人の半分で終わるんだ」
「これでもってなんだよ…」
「へえ…全然そんな風には見えないのに…」
「ジョディさんほんと酷い!」
俺、言われた仕事は迅速に熟すんですから!と一生懸命伝えようとジョディに詰め寄る。ジョディはそんな遙の姿に可笑しそうに笑った後「悪いわね、拗ねないでちょうだい。お詫びに後で飲み物でも奢るわ」とウィンクをした。それに今までの不機嫌そうな表情が嘘のように明るくなり、コナンを抱きかかえた。コナンが吃驚して「おっおい!落ち着けバーロー…!」と手足をバタつかせたが、気にする様子もなくぎゅうっと抱き締めて「ジョディさん優しい!哀とは大違い!」と無邪気な笑顔を見せた。
そして、呆然とした様子で遙のことを見つめている、植木鉢を持った男性と目が合った。そうして遙は、初めて自分が名乗っていないことに気付き、急いでコナンをゆっくり下ろすと、少し乱れた服装を正して頭を下げた。
「あの、申し訳ありません…!俺、倉敷遙と言います。ええっと…コナンの助手みたいなものです!」
「ほお…コナンくんには、私たちFBIもお世話になっているよ。私はジェイムズ・ブラックだ。よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
握手を交わして薄く微笑んだジェイムズの隣に静かに立っている男がいたので、遙がその男性にも挨拶をしようと、瞳を向けると、…目が合った。
その男の顔を見た瞬間、遙の瞳が驚いたように見張った。遙は、その男が誰なのか、知っていたからだ。戦慄く唇が、その男の名を呼んだ。
「…―― 諸星、大?」
目の前の男が、その名を聞いた瞬間驚いたような表情に変わった。ジョディやジェイムズも驚愕を露にして「どうしてその名前を…!?」と遙に問いただすような勢いで聞いてきたが、コナンだけは難しい顔で遙を眺めるままだ。
「明美の友人だったんです、俺…だから、諸星さん、いや…赤井さんのことも知っています」
「っそんなこと、あの子の相談するときには言わなかったじゃない!」
「ふっふーん!男は秘密を着飾って強くなるんですよ!」
得意げに話す遙を、少し苦しげに見つめる赤井に、遙は近付いて安心させるように「…憎んでないですよ」と微笑みかけた。
「…あなたは明美を本当に愛してくれていた。それは、明美の話を聞いていればわかりました。あなたが明美のことで、悔やむことは何一つとしてない。…そんな顔をしないでください」
「……君は、いつ俺の話を明美から聞いていたんだ」
「最初からです。あなたとの出会いもあなたとの幸せだった話も…全て聞いていました」
「それで何故、俺を憎まない」
「あなたは憎まれたいんですか」
優しげな瞳が、すっと細められて鋭い刃のように赤井に突き刺さる。「明美の幸せは誰にも侵せない。明美だけの幸福だ。そして、その明美と一緒にいたあなたの明美との想い出も、誰にも侵せない。あなたたちの大事なひと時を、どんな形であったとしても…俺にも、明美の妹にも、当然他の誰にも…」と一つ一つの言葉を、赤井の心に少しでも届くようにと大切に音にする遙を、赤井がじっと見つめる。
「……俺は、あなたに感謝している。俺は、明美と一緒にいて…あの子があんなに幸せそうにしているのを久しぶりに見たんだから……俺が許せないのは、ジンだけだ」
赤井の先に在る、銀髪の男を思い出しながら睨むようにしてぐっと強く拳を握った。「…コナンと一緒に組織を追うその先に、あいつはいる」と苦しそうに呟く遙を安心させるように、ポンッとコナンのあたたかくて柔い手が遙の拳を叩いた。それにはっとした遙が慌てたように赤井に「だからっ、明美のためにも一緒に組織追いましょう赤井さん!」と熱く拳を上に掲げるた。その様子を見ていた赤井が、微かに目を丸くさせた後、ふっと柔らかく微笑んで遙に手を差し出した。
「…よろしく頼む、倉敷くん」
「っはい!」
目を細めて柔らかく笑った遙が、ぎゅっと赤井の手を握り返した。握手をしたことで遙と自然と距離が近くなった赤井が、遙の瞳をじっと見つめてくるので、不思議そうに首を傾げて「赤井さん?」と声をかけると、「いや…」と短く呟いて手を離した。
遙はそんな赤井に首を傾げながら、ジェイムズがずっと持っている植木鉢が気になり「綺麗な花をお持ちですね…コロンバインですか?」と聞くと赤井との会話に呆気に取られていたジェイムズが「あ、ああ…宅配で届いたらしくてね…しかし何故こんな花を私に…コロンバインはコロラド州の州花だが…」と首を傾げていると、コナンが「必ず手に入れる!!」と答えた。ジェイムズがコナンの言葉に「え?」と返すと、「その花の花言葉だよ!」と告げた。それにはっとした遙が「他には『断固として勝つ』って意味もありますよ」と続けると赤井が「…宣戦布告ですかね?」とジェイムズに話しかける。ジェイムズが神妙な面持ちで「ああ…そのようだな…」とコロンバインを見つめていると、後ろで車が駐車した。急いで出てきた男が娘をおんぶしながら「おいしっかりしろ!今病院に着いたから!」と病院に駆け込んでいった。その後も次々と車から降りてきて病院に駆け込んで行く。
ジョディが「さっき見た事故の被害者かしら…」と呟くのと同時に≪こちら正面玄関のマイヤー!≫と何処からか声が飛び込んできた。ジェイムズが「ジェイムズだ!何かあったのかね?」と背広から取り出したトランシーバーに向かって返答を返すと≪そ、それが…≫と困惑した声が聞こえた。遙は眉を顰めながらトランシーバーに視線を向けた。
≪病院の玄関口にケガ人や病人が殺到していて、とてもチェックしきれません!≫
「なに!?」
≪ケガ人達の話によると、この近辺でほぼ同時刻に3つの事故が発生したらしくて…≫
「3つの事故が同時にか!?」
ジェイムズのその言葉に、遙は「あ」と声を上げた。それにコナンが「どうした?」と聞いてきたので「いやあ…」と言葉を濁しながら「その3つの事故、調べたんだわ」と言葉を続けた。「そういうことは早く言えよ!」とコナンが怒鳴るように責めた。「ごめんごめん!」と素早く謝った。赤井がそんな遙の様子に、一人ふっと微笑んだ。遙はうーんと唸りながら、「3つの事件は確か…」と思案しながら口を開く。
「集団食中毒に異臭騒ぎに火事だよ!」
≪集団食中毒に異臭騒ぎに火事です!≫
「あ、ハモった」とトランシーバーを見つめながら、遙がそう答える。ジェイムズやジョディが遙を驚いたように見ていたが、すぐに真剣な表情になり「組織の仕業か…」とジョディと話込む。コナンは遙に呆れたような表情を向けたが、ジョエイムズたちの会話が気になるようでまたジェイムズたちの方に目を戻した。
遙は後でしっかり謝ろ…と細く息をついて、携帯を開き『帰るの遅くなりそうだけど、ちゃんと帰ってくるから心配すないですぐ寝なさい。お肌の敵だから』と哀にメールを送った。「…博士ちゃんと哀のこと見ててくれよ…」と困ったように微笑んで携帯をポケットに戻していると「いや…それは無い…」との赤井の声が聞こえて来たので、会話を聞くために顔を上げる。赤井の言葉に「え?」と首を傾げたジョディに、赤井は「それだけ大量に仲間を送り込み、そんな不審な行動をさせれば、我々FBIに捕まる恐れのある仲間の人数も跳ね上がる…そんなリスクを負うような奴らじゃないさ…」と薄く微笑んだ。ジョディが冷や汗を一つ流しながら「じゃあこの騒ぎは…?」と問いかけるので「ああ…狙いはおそらく…別の何か…」と病院裏側からでも見えている火事の現場を眺めながら答えていると「ねえ…さっきから音してない?その植木鉢…」とジェイムズの持っていた植木鉢をコナンが睨んだ。
「え?」
「しかもその音…だんだん大きくなってるよ…」
遙がコナンの言葉を聞いて「そういや…してる」と耳を近付けた。ジェイムズも「い、言われてみれば確かに…」と緊張の色を顔に滲ませると、「ゆっくりと地面に置いて離れるように…」と赤井が告げて、地面に置かれた植木鉢の中身を確認した。その中には、爆弾が入っていた。「爆弾!?」とジョディが驚愕していると、ジェイムズが「鉢の中身は調べなかったのかね?」と汗を滲ませながらジョディを見た。「す、すみません…花ばかりに気を取られていて…それに…」と青褪めながらそう答えるジョディに、赤井が「この鉢に爆弾なんか仕掛けても捜査官を数人殺すだけ…爆発の騒ぎで日本警察が来れば、水無怜奈捜索どころじゃなくなり…奴らにとってメリットはゼロ…そう踏んでたんだろ?」と薄く微笑みかけた。
「赤井さんすっごいなあ…コナンくらいすごいんじゃない?」
「まあ…赤井さんはすごいとぼくも思うよ」
にっと笑んだコナンに遙も微笑みを返していると爆弾処理の算段が立ったのか、ジョディが男の捜査官と一緒に走って行った。その様子を見ていた赤井が「引っ掛かりますね」と呟いた。それに「ん?今のキャメルくんかね?確かに好感を持てる顔立ちとは言えんが…」と告げると「いや、爆弾の方ですよ…」と返した。遙は赤井の言葉に考えるような表情をした後、多くなる人たちを眺めながら「俺、ちょっと正面玄関の方行って様子見て来るよ」とコナンに声をかけた。それに頷いたコナンが「ぼくもすぐに行くよ」と駆け出した遙の背中に言葉を投げかけた。