知っている

「うわ…人すげえ多いな…」

ごった返す人たちを眺めながら、不審な人物はいないか必死に視線を巡らすがあまりの人の多さに追いつかない。舌打ちをして誰かに話でも聞こうかと歩き出そうとした遙に「遙!」とコナンの声がした。振り返るとコナンが赤井と歩いて来ていた。「コナン!爆弾の方は処理出来たのか?」と聞くと「まだだ」と赤井が答えた。そして全く進まない診察に苛立ちを隠せず暴言を吐き出す人が出始めた。…ふと、遙は気付いたことがあったので、コナンと赤井の方に目を向けて「ねえ…」と言葉を口にするとコナンが頷いて「宅配業者の人…」と答えると「やけに多いな…」と赤井が続けた。3人で宅配業者の方に歩いて行って、赤井がぶつかり「あっと失礼…すみませんねえ…」と謝ってコナンと宅配箱を見つめる。宅配業者の胡乱げな表情に遙も困ったように小さく笑って箱を眺めると、楠田陸道と書いてあった。それにはっとした表情を見せたコナンと赤井の様子に首を傾げた遙の耳に「ジョディ君、そっちはうまくいったかね?そろそろ爆発の時間だが…」と聞こえてきた。遙はジョディのことが心配になり、「大丈夫かな…ジョディさん…」と眉を下げて不安そうな表情をすると、「そんな顔をするな」と赤井が告げた。小さく口元に笑みを浮かべて遙の隣に立った赤井は、「…キャメルがいる。あいつに任せておけば心配はないさ…」と言って、遙の肩に手を置くと軽く叩いたので、遙はゆっくりと頷いて微笑んだ。

届け物の中身を確かめるために、病院内に入って行く赤井の後ろ姿をじっと眺めていた遙に、コナンが「おい、遙」と声をかけた。それに振り返らずに「なんだ?」と答えた遙に、コナンは溜息を吐いて「…あんま、深く考えるんじゃねーぞ」と呟かれた。

「…明美さんのために、頑張るんだったら…そんな顔で灰原のとこに帰るんじゃねーぞバーロー」
「……分かってるよ」
「ったく……ジョディ先生のことが心配なのはわかるけどよ、ジョディ先生と明美さんを重ねるな……お前は俺のワトソンだろ。だったら、どんと構えてろよ」

そう言って遙の手を引いて、赤井の後を追うように歩き出したコナンに合わせて遙も身長さで躓きそうになりながらも一緒に歩き出した。前を行くコナンの背中は、幼いのにどうしてだろう…新一だった頃の逞しい背中と全然変わらない。それにふふっと嬉しくなって微笑んだ遙が「…うん!」と目を細めて答えた。

▼▲

赤井に追いついたコナンと遙が、病室をノックして「すみません…警備の者ですが…」と告げる赤井と共に病室に入ると、果物カゴを手に持って困惑した患者が目に入った。

「今、看護師さんが宅配の荷物を持って来ましたよね?」
「あ、はい…果物カゴを…」
「楠田っていう人からじゃありませんか?」
「ええ…でも覚えがないんですよ。その名前に…」

眉を顰めている患者に、赤井が果物カゴを受け取り「ちょっと失礼…」と中を確認すると出てきたのは、爆弾だった。「…ジェイムズさんと同じだ」と小さく呟いた遙の言葉を耳に拾ったコナンが「ああ…」と赤井の手にある爆弾を見つめて答えた。「何ですかそれ?」と冷や汗を浮かべる患者に「盗聴器ですよ!これを使った新手の振り込めサギがはやっていましてね…」と安心させるように答えて、病室を後にした。
病院から裏側駐車場まで戻ると、ジョディが爆弾を無事処理して帰って来ていた。無傷の様子に、遙は安堵の笑みを浮かべるとジェイムズと話しているジョディの背中に抱き着いた。

「ジョディさん!」
「わっ…!ちょっと、遙!吃驚するじゃないの!」
「だって、爆弾、無事処理して帰ってきたんですよね?…心配してたんですよ」
「…遙……こんなに心配してくれるのは、あなたくらいのものよ」

自分を後ろから抱き締める遙の腕に安心させるように手を置いて、宥めるように「大丈夫よ、ありがとう」と笑って答えたジョディから、体を離した遙の後ろから歩いている赤井とコナンが合流して、先程の爆弾の話を始めた。

「ば、爆弾!?……やっぱり見舞い品の中身は爆弾だったのね!?」
「ああ…これ1個だと、病室1つを吹っ飛ばす程度のプラスチック爆弾だが…」

「これが数十個同時に爆発すれば…この病院は間違いなく倒壊する…」と赤井がジョディに説明すると「そ、そんな…」と緊迫した表情で眉を寄せた。「幸い爆発の時間まで約4時間あることと爆薬本体に刺さった信管を取り外せば爆弾として機能しないという事だが…しかし病院側が宅配業者から受け取った届け物はほぼ配り終わっていて、その数は60個近くあるそうだ…」と神妙な表情で口を閉じだ。ジョディが頷いて「なるほど…だから組織は病院を怪我人や病人であふれさせたんですね?」と答えた。

――…60個の爆弾を処理することとなったジョディたちに「それならこれ貸すよ」と一つの携帯を渡す。ジョディが「なんなのこれ?」と聞くと、得意げに笑った遙がウィンクしながら口を開いた。

「実は、さっき病院から出るときに、事務の人に話を聞いてたんだ。コナンや赤井さんが宅配物気にしてたからね…なんか役立つかもと思って…何処の病室に届けるのか、聞いといた。ちゃーんと『楠田陸道』から届いてる分だけ!」
「遙…!あなた…!」

すごいじゃない!と褒めながら病院内に走っていくジョディに嬉しそうに微笑んでいると「…素晴らしいな…!これならすぐに届け物を確認出来る…遙くん、FBIに入らんかね?」と真剣な表情で告げるジェイムズの言葉にコナンは焦った顔をしたが、それを本当と受け取っていない遙は「聞いた!?聞いたコナン!?俺FBIに進められたよ!こんな褒められ方初めてだ!いやあコナンのワトソンとしてまたさらに自信がついたよ!」とうきうきした様子に、すっ転びそうな動作をしたコナンを見た遙は「何やってんだコナン…俺の話聞いてた?」と不機嫌そうな表情でコナンを睨んだ。コナンの焦りを知っているのは、赤井だけだった。

「ふっ……君も苦労が多いようだな…」
「まあね…遙は警察の方でも一緒に働かないかって言われてて…人気なんだ…」
「ほー…あれほどの情報収集能力に機転の速さ……確かに日本警察も一人でも多く欲しいだろうな」

赤井が遙のことを見つめながらそうコナンに言うと、コナンも呆れた様子で「うん…」と呟くと、ジェイムズが赤井に「しかしこうなると厳しいな…組織は水無怜奈の奪還しに来るとばかり思っていたんだが…」と難しい顔をした。「ええ…」と答えた赤井が「まさか最初からその命を絶ち…口を封じる腹積もりだったとは思っていませんでしたよ…」と続け「なあボウヤ…」とコナンに告げる。それに「うん…そだね…」と何かが引っ掛かるような表情でコナンは返した。

遙も何かがすっきりしないので、病院付近で起こった事故のニュース番組やネットニュースの記事を確認していると、3つ目の携帯から【視聴者のみなさん…】と最近はよく聞きなれた耳通りの良い女性の声が聞こえて来た。それにはっとした遙がボリュームを上げて聞き逃さないようにイヤホンに手を当てると【ご心配をおかけして申し訳ありませんでした…この通り、ケガもすっかり治りましたので…】と言葉を続ける。遙は、病室に匿っていると聞いていた水無怜奈が何故テレビに!?と困惑したが、早く知らせなければと「コナン…!赤井さんも…!」と携帯を見せるようにすると同時に、ジェイムズが「なに!?水無怜奈がテレビに出てる!?」と叫んだ。「それは本当に彼女なのか!?」と言うジェイムズにトランシーバーから≪は、はい…≫と困惑する声が聞こえる。遙がジェイムズに見せるように携帯画面を見せると、確認したジェイムズが一つ頷いた。≪ロビーや病室にあるテレビに映っているんです!病室からの映像で入院着を着たまま「ケガはもう完治した」と…水無怜奈の病室からそちらに何か連絡は入っていないんですか?≫と告げる声にジェイムズは「いや…彼女の病室には3名張り込ませて、その内一人が5分ごとに屋外に出て、状況を私に報告させていたんだが…」と冷や汗を浮かべて答えた。

「とにかく彼女の病室へ行き、その真偽を確かめてくれ!」
≪ええ!みんなそう思って、もう向かっています!≫

その言葉に、コナンや、赤井…そして遙も何か考えるようにしていたが、同時にはっと理解したように顔を合わせあった。「各ブロックのリーダーさんに伝えて!水無怜奈の病室に行くなって!」とコナンが危機迫る様に叫び、「お願いジェイムズさん、早く…!」と遙が言葉を続けるが、赤井が「もう手遅れでしょうけど…」と静かに答えた。それに「て、手遅れって…まさか本当に組織はもう彼女を…」と顔を青褪めさせた。

「…もう手遅れなら、俺たちも病室に行きましょう!」
「そうだな…」

遙がそう問いかけると、それに頷いた赤井が走り出した。遙たちもそれに続いて、水無怜奈の病室に向かうと、捜査官たちが集まっていた。
ジョディが「何だ…いるじゃない……じゃあ何だったの?さっきのテレビ…」と呟くのに「踊らされていたんだよ、FBIは…奴らの手の平で…奴らの思い通りにな…」と答えて病室に入った。

「お、踊らされた?」
「ジョディさん、多分さっきのテレビの映像は…前に彼女が爆発事件に巻き込まれてケガした後の番組復帰のコメント映像に、入院着とバックの病室を合成したモノなんだと思います」
「ボク、この前彼女の大ファンのおじさんの家でそれを録ったビデオ観せてもらったから、間違いないよ!」

遙の言葉に強く頷いてそう言うコナンに、「でも、何で組織はそんな映像をわざわざ電波ジャックまでして流したのよ?」と眉を顰めながら問いかけると「FBIの人達をここに集めるためさ!病院内で携帯電話や無線を使わないのを見越してね!まあ…遙は別だけど…」とちらりと目線を向けられて遙は微笑んで頷いた。しかし、まだ理解出来ていない様子のジョディが「だから、私達をここに集めて一体何を?」と据わった目でコナンに顔を近付けると、赤井が「さっきまで探し回っていただろ?奴らが病院内バラまいたオモチャ…今どこにある?」と聞いてきたので、ジョディは不思議そうに「ああ…爆弾なら信管を外してポケットに…回収したらすぐ別の部屋に調べに行かなきゃいけないから…」と、そこまで話している途中で、ようやく気付いたジョディが「――って…まさかこれに!?」と手に持つ爆弾を見た。

「ああ…そのオモチャに付けられていたんだよ…厄介なオマケがね…」

コナンの言葉に、遙がぐっと唇を噛み締めた。組織に踊らされた自分が苛立たしかった。遙に、コナンや赤井のような推理力はそんなにない。他の知識をどんなにたくさん持ち合わせていても、こういう時、どうしようもなく無力だった。
――…「遙の魅力は、その元気と笑顔だから、大事にね」と記憶の中の明美が微笑むのに、ふっと目を細めて「ワトソンはもっと頑張らにゃいけませんな」と小さく呟くのだった。