「何も変わらない」

「あ〜かぁいい〜。
ホント小エビちゃん、なんでそんなに可愛いの〜?」

「ああ!もう、先輩!髪ぐしゃぐしゃになっちゃうじゃないですかー!
やーめーてーくーだーさーいー!!」

「あは、やだぁ」とか言いながら、嬉々として私の胴に長い腕を絡み付かせ、挙句頭に頬を擦り付けてくるフロイド先輩。
大好きなフロイド先輩であればどんなことをされても大抵嬉しい。
だが、折角フロイド先輩に褒めて欲しくて、朝早く起きて髪の毛をセットしたのに、これでは台無しだ。

「もー折角可愛くセットしたのに……」

「なになにー?何でそんなにおめかししてんの?
今日なんかあった?」

「いや、別に……特にないんですけど」

「フロイド先輩にこの髪型、褒めて貰いたかったんです」と今にも掻き消えそうな声で呟いた。
本当に小さな声だったのに、ちゃんとその声を拾っていた先輩は面白そうに目を細め、私を締める力を強めた。

「ええ〜なんでそんな可愛いこというの〜?
今日の髪型、凄く似合ってるよ?
ごめんねぇ、ぐしゃぐしゃにしちゃって」

「ホント、ですか?
うれし、いんですけど……あの、そろそろ、死にそう、です、先輩……」

「あ、ごめんごめん」

ヘラリとしながら、呆気なく私から離れた先輩。

ずっと苦しかったが、離れるのが惜しく締め付けられるがままにしていたが、やはり無理があった。
ようやく締め付けから解放され、新鮮な空気を存分に取り入れる。
そして、ぬるい温もりが離れたことに寂しさを感じる。
もっと強靭な体だったら、ずっと引っ付いていられるのに、と常々思う。

いつの頃からかフロイド先輩のお気に入りの玩具と化した私。
多分アズール先輩のオーバーブロッド事件の頃からだろうか。
"あの"フロイド・リーチが私に優しく甘い。
だから、私は先輩にとって特別な存在なのではないかと意識してしまって、それからは見事に先輩にずぶすぶと嵌っていってしまった。

気紛れな先輩に嵌って、痛い目にあうのは私なのに。

私はいつもフロイド先輩に抱きつかれる度に、蕩けた笑顔を向けられる度に、可愛いと言われる度に、胸の鼓動が煩いくらいに鳴り響くのに。
その響きは一切先輩には届かない。
届く気配すらない。
先輩にとって、本当に私はお気に入りの玩具でしかないのだ。

私は毎日毎日、先輩の「飽きた」という言葉に脅えて過ごしている。

そんな私の心中なんて微塵も知らない先輩は「じゃあ、また来るね〜」と去っていった。

気紛れに私に近付いてきて、気が済むまで構い倒したらさっさと去っていく、いつものルーティンだ。

もっと私を見てください、もっと私と居てください、先輩に好きになって欲しくて可愛くしたんですよ?

ただの可愛いだけじゃ満足出来ないんです。

ちゃんと異性として見てくれてますか?

……なんて言葉を掛けられるはずもなく、先輩の出て行った教室のドアを何ともなしに見つめる。

我儘なんだろうな、と思う。
あのフロイド・リーチに可愛がってもらっているだけで、夢みたいなことなのに。
フロイド先輩にこんなこと求める方が無謀なのだ。

先輩が居なくなったのを見計らって私の席に近寄ってきたエースとデュースとグリムは「今日も盛大に構い倒されてんな」と呆れを混じえた笑みを浮かべて言った。
「そうだね」といつものように返事をして、くだらない話をして、チャイムが鳴ったら授業を受ける。

いつも通りの一日が始まる。



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-優刻-