「協力要請」

あっという間に決意表明をしたあの日から数週間経ち、未だフロイド先輩との距離は変わらず。
その間、私はヴィル先輩に頼み込みまくった。
勿論一筋縄ではいかなかったので大変苦労したが、何とか今ではご教授下さっている。
そこまでスパルタでなくとも良いのでは?と思う程に、ノリノリで鞭を打ちまくられている。
ヒィヒィと汗水、時に涙を垂らしながら頑張った甲斐があったのか、体型も引き締まったような気がするし、肌ツヤも良くなり少し美白に近づいたような気もする。
あくまで"気がする"ではあるが、とにかく頑張ったということは分かって欲しい。
あの鬼コーチ、ものっそい恐かったんだから!
だが、肝心のフロイド先輩が捕まらないとどうにもしようが無い。
どうしたもんかと唸っていると、噂をすればなんとやら。
大変見覚えのある、鮮やかな青色が視界を過った。

「フロイド先輩!!」

また逃げられるかもとか、追いつけないかも、とか、色々考える前に先輩の元へ体は走り出していた。
私の声に反応した先輩は、何故か今回は逃げ出すこともせず、寧ろ立ち止まって私に視線を向けている。
シルエットがはっきりして、何故逃げなかったのか理由が判明した。

「フロイドでなく申し訳ございません、監督生さん」

その正体はジェイド先輩だったのだ。
そりゃあ逃げない訳だ。
寧ろ間違った名前を呼んだのに、わざわざ立ち止まってくれるなんて、優しいといえば良いのか、はたまた嫌がらせか。

「何かフロイドに用がおありですか?」

「まあ、そうですね……とっても大事な用があるんです」

食えない笑みを浮かべるジェイド先輩を見て、私はあることを思いついた。
ジェイド先輩にフロイド先輩の足止めをしてもらえば良いのでは?
もうこの際、対価が恐いとか言ってられない。
対価なんて、愛しのフロイド先輩に避けられ続ける人生を送ることに比べればクソ喰らえだ。

「まあ、それはそれは。
では、早くフロイドに会わなくてはなりませんねえ」

「そうなんですよ。
ってことで、私いいこと思いついたんです」

「いいこと、ですか?」

「ジェイド先輩、フロイド先輩を捕まえてくれませんか?」

一瞬驚いたかのように目を瞬いたジェイド先輩だったが、すぐに楽しそうに笑みを浮かべた。

「へえ、珍しいですね。
監督生さんが僕に頼み事をしてくるなんて」

「私一人じゃどうにもならないんで。
協力してくれますか?」

「勿論、協力しますよ」

「面白そうなので」という声が、含みのある笑みを浮かべたジェイド先輩から聞こえたような気もするが、ひとまず快諾してくれたので良しとしよう。
後々何か要求されるかもしれないが、その時はその時だ。
ひとまず、目先の問題を解決しよう、と萎縮する気持ちを叱咤する。

「フロイドを捕まえればいいんですね?」

「はい、宜しくお願いします」

それから、何時どこで落ち合うかなど簡単な作戦会議をし、その日は別れた。
これで何とか、フロイド先輩とお話出来るはず。
せっせと来る日に備えて、私は日課の筋トレ、ストレッチ、肌パック諸々欠かさず行った。

そして、作戦実行日当日。
髪ツヤよし、肌ツヤよし。
声の調子もよし。
今日はこの上なく万全な状態だ。

皮肉なことに、フロイド先輩のマジカメIDより先にジェイド先輩のIDをゲットした私。
そのマジカメのメッセージ機能でフロイド先輩の現在の状況などを教えて貰いながら、いそいそと先輩達の2年生の教室がある校舎へ向かう。
その校舎の廊下に、ジェイド先輩とフロイド先輩がいた。
上手く足止めをしてくれているみたいだ。
フロイド先輩からは死角になっているこの場所で、落ち着くために深く深ぁーく深呼吸する。
そっと廊下の影から一歩踏み出し、背後から静かに距離を縮めようとするが、流石は先輩。
気配を察したのか、ふと振り向いたフロイド先輩は私の姿を一瞥すると、そのまま「嵌めたな!ジェイドォ!」と吐き捨てて、逃亡した。

「おやおや」

「え!?ジェイド先輩!?止めてよぉ!」

ジェイド先輩はにこやかにそう呟くだけで、肝心の足止めをしてくれなかった。
何で!?!?協力してくれるんじゃなかったの!?!?
しかし、あのジェイド先輩に期待する方が馬鹿だったと思い直し、以前と同じようにフロイド先輩の後を必死に追う。

「間に合うわけないじゃんんんん!!」

見る見るうちにフロイド先輩の背中は遠くなる。
もう!なんで逃げるの!?!?
追い付けなくても、背中だけは見失わないように軽やかに逃げる先輩を必死に背中を追い続ける。

「はあ!!?反則、だよぉッ!!!!」

先輩は階段を一段二段飛ばしどころか、何段も飛ばして颯爽と下っていってしまった。
何とか下の階まで下り、恐らく先輩が駆けて行ったであろう中庭の方まで来たが、視線から外れたが最後、完全に見失ってしまった。
力なくその場にへたり込む。
全力疾走したからか、脇腹は痛いし、口の中に鉄の味が広がっている。
息も中々整わないし、空気が漏れるような変な音がする。
目の前もチカチカするし苦しい。
この苦しさは、走ったことによる苦しさなのか、はたまた先輩に意味も分からず、それも全力で避けられているのが悲しいから苦しいのか。
ダメだ、打ちのめされそう。
私一人であのフロイド先輩を捕まえられる訳ないし。

「ッあぁ〜わっかんない!!何で、逃げるのッ!?はぁッ……もう〜!!」

分かるわけがない。
私にあの先輩の考えが読めた試しが無いのだから。
機嫌良さそうにニコニコしてたかと思ったらすんごく不機嫌になることもあって、何かに縛られることなく自由気ままに生きている。
そこが寧ろ好きなところでもあるから、厄介なのだ。
嫌いになれればいいのに。

「……あーあ、好きなんだよなあ……」

誰に言うでもなし、ため息と共につい溢れてしまう。
息が整ったのを確認して、震える脚を叱咤しながら、先輩を探すため立ち上がる。
しかし、そんな私の前に大きな黒い影が立ち塞がった。



<< top >>

-優刻-