※念のためですが、今回R15入ります↓
しばらく沈黙が流れる。
肝心な先輩からの返答が一向に返ってこない。
表情もちょうど逆光になっていて、上手く読み取れないし、痺れを切らした私はもう一言言ってやろうと息を吸い込むと同時に、先輩が何か言ったような気がした。
早る気持ちを抑えて、もうしばらく待ってみる。
「……からじゃん」
「え?もっとはっきり言って下さい、先輩!」
「だから!小エビちゃんが、そんなメス臭い格好してるからじゃん!!!」
耳がキーンとした。
それぐらい大きい声だった。
しかし、そんなこと以上に言われた言葉の意味が理解出来ず、思わず思考が停止した。
「は?」
「そんなメス臭い格好してフラフラしてっから、あんな野郎どもに目ぇ付けられんだよ!!」
「ちょ、意味が、分からないんですけど」
「しかもさあ、何?
オレがちょっと離れただけで、ジェイドんとこに行ってさあ!
似てれば誰でも良いわけ?
じゃあ、もうジェイドにしたらいいじゃ……ッ!」
パシリと鋭い音が響き渡った。
目の前の先輩は片頬を押さえて呆然としていて、私の右の掌はジンジンと熱を持っている。
右の手のひらが痛い。
でも、それ以上に心が痛い。
痛くて苦しい。
何を言われてるの?
何で私、ここまで言われなきゃいけないの?
必死に頑張って、先輩に異性として見て欲しくて、綺麗になったって言って欲しくて、頑張っただけなのに。
頑張ったらいけなかったの?
「ってえ……!
あのさあ!さっきから、痛いんだけ、ど……。
……小エビちゃん……?」
スカートの裾を握り締める。
もう泣きたくないのに、涙が止まらない。
ぐちゃぐちゃになったスカートと同じように、ぐちゃぐちゃの思考のまま、思い切り叫んだ。
「んぅう〜!っいいじゃないですか!!
別に!メス臭いことの何が駄目なんですか!!
綺麗になろうとしたっていいじゃないですかあ!!
だって、だってぇ!フロイド先輩のこと好きなんだもん!!
フロイド先輩に異性として見て欲しかったの!!
ちゃんと異性として見て欲しくて、頑張ったのに!!
なのに何で、何で!そんなこと言うんですかあ!!」
「え、あの、小エビちゃ……」
「稚魚とか言うから、もっと大人っぽくなったらちゃんと異性として見てもらえるかもとか思うじゃないですかあ!
しかも、ウツボの求愛行動?っていうのしてみたのに、同じウツボのジェイド先輩が教えてくれたからやってみたのに、全然反応ないし、挙句逃げられるし!!
これ間違ってたんじゃないんですか!?!?
もおぉおどうすればいいんですかあぁぁ!!」
何年振りかの号泣だった。
私は過呼吸気味になりながら、先輩の足元にうずくまる。
ああ〜もうこれ、終わるわ。
面倒くさい女だって、飽きられるわ。
こんなに頑張ったのになあ。
思考の端でそんなことを考えながらも、私の涙は止める術なく流れ続ける。
「小エビちゃん……」
さり、と足元の草を踏む音が聞こえた。
私は小さく震える声と共に吐き出す。
「本当に、好きなんです、フロイド先輩……。
まだ駄目ですか……?
もっと努力すれば、私のこと見てくれますか?
……私、先輩なら何処にでもついて行きます。
海の中でもどこでも。
先輩、フロイド先輩……嫌いに、ならないで……っ!!」
私のすぐ頭上で大きなため息が聞こえた。
そのため息に反応して私の体は大きく震える。
次に続くのはどんな言葉なのか。
はたまたそのまま去って行くのか。
この先の未来が怖くて、言わなきゃ良かったと後悔している自分がいる。
でも、聞かなきゃ先には進めないのも確かだ。
意を決して顔を上げると、そんな私の顔を覆い隠すようにフロイド先輩が抱きしめてきた。
「ふろ、せんぱ、い?」
「はぁあ〜……もうホント、最悪」
続きの言葉が怖くて先輩の腕の中で身じろぎする。
しかし、がっちりと体が固定されていて動けない。
動けないどころか少し苦しくもある。
「小エビちゃん、オレ、ホント、最悪だね」
先輩の声に後悔が滲んでいた。
緩やかに私の頭を撫でながら、静かに先輩は話し出す。
「オレね、小エビちゃんのこと好きだよ。
今にも海の底に誰にも見つからないように、しまいたいぐらい」
「……っなら、何で……」
「小エビちゃんといるとね、知らない感情が沢山ぶわぁ〜って溢れてくるの。
それがもう訳わかんなくて。
アズールやジェイドに聞いても話になんねえし」
「知らない感情……?」
「ん、そう。
こんな風にいつも抱き締めたでしょ?
そん時はすごく気持ちよくて、なんか一つになったみたいな感じになんの。
小エビちゃんが笑ってるの見ると、心臓あたりがきゅうってなって苦しくなんの。
でも、それがイヤじゃないから、変な感じ〜。
んでさあ、ちょっとからかっただけで、ホント小エビみたいな反応するから、面白いし楽しい。
でもそれだけじゃなくて、オレが知らない小エビちゃんがいないか知りたくなんの」
しゃくりを上げる私の背を一定のリズムで優しく叩きながら、フロイド先輩はゆったりと話続ける。
「あと、ジェイドとか、他のオスに近づかれる小エビちゃんを見ると、すっげえムカつくし、こうギュ〜ッてオレから離れられないように閉じ込めておきたくなる。
ホントなら小エビちゃんは誰にも見られたくない。
でも、閉じ込めたりとかそんなことしたら、多分小エビちゃん、もう笑ってくれなくなるだろうなあって思って、なんか出来ねぇの」
一つ一つの言葉を紡ぐように先輩は言う。
疲労した私の心に先輩の言葉が染み込んでいく。
「……あん時、小エビちゃんがオレに求愛行動してくれたの知ってる。
ごめん、知らないフリして、逃げて。
本当にごめんね。
たくさん傷付けた。
痛い思いさせて、ごめんね」
「……知ってたんですね」
「うん。
求愛された時、オレ、色々ヤバかったの。
言い訳にしかなんないんだけどさあ。
あん時のオレ、もう小エビちゃんに嫌われても何されてもいいから、オレだけしか見れないようにしたくなった。
オレだけしか見れないように、本当にどこかに連れ去って、オレの存在を刻み込んで、もう一生オレがいないと生きてけないようにしたいって、思ったんだあ」
「ねえ、怖いでしょ?逃げるなら今だよ」と何か諦めたように笑いながら言う先輩。
そんな先輩の胸に飛び込んで、私は厚い胸元に額を擦り付ける。
何で逃げなきゃいけないの。
こんなに嬉しい言葉はないのに。
「逃げません。
私、先輩になら何されてもいいですもん。
何されても嬉しいです。
だって、結局私のことが好きでした行為じゃないですか。
愛おしいの何物でもないですよ。
先輩、フロイド先輩。
私、先輩が本当に大好きです」
私の言葉に息を詰まらせたフロイド先輩は、また大きなため息のあと叫んだ。
「っああ〜もう!小エビちゃんさあ!?
そう言うこと、軽々と言わないでよ!!
どうなっても知んないからね!!?」
「はい!好きにして下さい!」
「ッもぉ〜!小エビちゃん!!」
一際大きい声に驚いて、フロイド先輩の顔を見上げる。
目の前には白い象牙色の鋭い歯と、血色の良い赤い舌が覗いていた。
これ、求愛行動……?
私も自然とつられるように同じ行為を返す。
フロイド先輩はしばらく私に向かって口を大きく開けた後、少し頬を赤く染めながら私に顔を近づけてきた。
トロリと熱を帯びた彼のアシンメトリーの瞳から視線が反らせない。
視界が暗くなる。
ほんのり冷たさの残る先輩の唇が私の唇に触れる。
熱った私に触れたそれは、今にも溶けそうだった。
軽く触れた後、チュゥと可愛らしい音を立てて離れていく。
「あ……」
私は思わず、離れていく感触が名残惜しく、声を上げた。
そんな私の様子を見て意地悪そうに笑ったフロイド先輩。
「なあに?物足んないの〜?
じゃあ、小エビちゃんからして?」
「え!そ、それは……ぅう」
「ほらあ、は・や・く〜」
愉しそうに私からのキスを待つフロイド先輩に、どうにでもなれと唇を合わせる。
堪らなく恥ずかしかった私は、早々に離れようとしたが先輩がそれを許さず、ギュウと力強く私を抱き締めてくる。
先輩は性急に私の頭を後ろから固定しながら、深く口付ける。
段々深くなっていく口付け。
最早先輩のか私のか判別つかないほどに唾液が溢れる。
暗い視界で、先輩の吐息と匂いだけが私を満たしていく。
「好き、好き。
オレも小エビちゃんが好き……だぁい好き」
キスの合間に、先輩は何度も好きと言う。
彼の愛に溺れそう。
苦しい、けど気持ちいい。
暗い暗い海の底に、彼を感じながら、溺れていくような感覚。
でも、しっかりと彼が私を抱き締めてくれているから怖くない。
このまま、本当に溺れてしまってもいい。
そう思うほどに、幸福に満ちた時間だった。
これからもっと彼の愛に溺れていくのだろう。
それはそれは、とても幸せなことだと、私は思った。
【END】