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「えっ、明日、帰ってくるの?」
電話をかけてきたのは妹だった、携帯端末から聞こえる声は不機嫌を訴えている。僕に対してではなく、この爆音が気にくわないのだろう。今日もギルくんお気に入りのCDがエンドレスリピート、眼鏡をかけた彼は勉強机とお友達だ。
日曜日はもちろん学校が休みで、天気も快晴なのに、二人とも家の中にいる。
「ちょ、ちょっと待ってて、うう〜そんなに怖い声出さないでよ。ギルくーん、音楽止めて!」
彼からの応答はなく、かわりに携帯端末の向こうがどんどん氷点下に近づいていく。仕方なく、受話口を強く耳に押しあてながら、自分でオーディオのリモコンを探した。
「うん、うん、いや、いつでも帰ってきていいんだよ、嫌がってなんかないってば」
「あっ、なんで切るんだよ……ん? 電話か?」
やっと気づいた彼は、僕の口調で通話の相手が分かったらしく、にこにこしながら立ち上がる。
僕の手元に顔が近づく、彼も妹の声が聞きたいみたいだ。
「学校は? ……あぁ、そうなんだ。ちょっ、ギルくん、お腹ぷにぷにしないで! あ、ううん、ちゃんと聞いてる、ごめん」
慌てる僕を見て、吐息だけで笑う。そういえば、彼がこんなに無邪気に笑うようになったのは、いつからだろう。ここに来たばかりの頃は、どんな顔をしていたっけか。幸せそうな表情が重なって、だんだんと記憶のなかまで、明るい光に薄らいでいく。
いたずらな手を撫でたら、背後から抱きついてきて、僕の肩に頭をのせた。甘えるような体温が心地よい。窓の外の快晴を眺めながら、電話の向こう、早く会いたいと繰り返している声を、一緒に聞いた。
遠くに、高架を走っていく電車が、小さく見える。行き先は分からないが、きらきらと輝いていた。
Fin.
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以下は読まなくてもいい後書きです。
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※信仰についていろいろと書いていますが、私などが何か意見を述べたいわけではなく、ただ愛し合うことは無条件に素晴らしいと思いながら、夢中で書いたら、こうなりました。
※作品内に登場するものについて、批判も、貶める意思も、助長する意思もありません。
Thanks BGM♪
《 Ave Maria 》Beyoncé
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
2014.9/18 初出