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「……ん、ギル……どこ……?」

 目覚めたとき、まだ陽は高くにあった。まず名前を呼んでから、欠伸を一つする。

 もう数週間、ほとんどの時間をベッドのなかで過ごしている。季節の変わり目に体調を崩すのはいつものことだが、今回は長引いていた。慣れていることとはいえ、病気は独りを心細くさせるものだ。

 あまり良くない夢を見ていたらしい、寝覚めがわるい。
 内容を思い出せない悪夢なんてものは、苦しさだけをいつまでも引きずってしまうから、扱いに困る。

 何度も部屋を見渡すが、誰もいないようだ。もちろん、ベッドの上から目の届く範囲は限られているが、彼がいるのなら気配がするはずだから(声だけでなく存在感まで大きいのだ)僕はしょんぼりして目蓋を閉じる。

「……ギル」

 寝返りをうち、いない人の名前を呼んだ。声は白いシーツのなかに消えていく。


* * *


 彼は唯一、僕のわがままから逃げなかった人だ。いわゆる幼馴染という存在で、いつから一緒にいるのか分からない。おそらく例のクマを失くすより、ずっと前からだと思う。
 他に友達はいない。いや、いるのかもしれない。でもただのクラスメイトと、友達とは違うらしいから、自信がない。みんなはどうやって区別しているのだろう。

 僕は周囲の人から、ぼんやりした子だと言われて育ってきた。ギムナージヤに入学したあたりから、人が僕を見る目はだんだん変わってきたようだけど、ギルには「かいかぶられるタイプになって、前より損してる」と言われる。
 言われて、僕は少しだけほっとした。


 ギルベルトだけは、いつも僕に真実≠言ってくれるのだ。そういうのを、世間では『本当の友達』というらしい。

 真実は、いちばん人を傷つけるかすら、滅多なことでは言えない。だけどそれを言い合える関係になれたら、それは一生の友達だ。
 本にそう書いてあるのを読んで、僕はすぐさまギルのことを思い浮かべた。とても嬉しかった。

 だから、ギルのことだけは、胸をはって友達だといえるし、父にも紹介することができた。とても誇らしかった。



 そう、真実は隠されるものだ。

 その存在に勘づいても、慌てず、騒がずに、ドアの隙間からそっと覗かなければいけないものだ。覗き見たことを、大人に気づかれてはいけない。

 僕は、母の最期も、自分の体のことも、なんとなく察するしかなかった。

 大人に気づかれてはいけない、だけど気づかれないよう少しずつ、「本当は知っているんだよ」と、伝えなければ。
 だって、そうしないと、大人がカワイソウだから。

「大丈夫、本当は知っているからね」

 口にしなくても伝わるもので、彼等は僕を気の毒がりながらも、内心ほっとしたような顔をしていた。それで、僕もやっと落ち着けたのだ。

 そのことを彼に打ち明けたら、くだらないと一蹴された。

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