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「金城ひなです。
卒業するまで、どうぞよろしく」
3年の2学期。
あいつは冷えた表情でそう言った。
どうして、あんな何も感じてないような表情なんたろう。
そう思ったけど、席も遠いし、俺は気にしないことにした。
だって、今俺は、傷心中だから。
一応。
部活も夏休みいっぱいで引退して、二年半続けたテニスとも数日前におさらばした。
完敗だった。
本土に行って、沖縄の力を見せつける。
死ぬような練習だったし、見せつけられるだけの力は付けたつもりだった。
絶対勝てると思ったのも、慢心だったのかもしれない。
でも、経過はどうでもいいんだ。
つまりは俺は、負けてしまった。
そういうことなんだから。
俺のそんな様を見たクラスの連中は天変地異の前触れと言わんばかりに腫物扱いされたが、そんなことも気にならなかった。
同じテニス部で、同じクラスの凛は元からクラスでは静かな奴だった。
でも、俺が話しかければ話すし、流れによっては騒ぐ奴だった。
そんな凛とも夏休みも明けてしまえば、もう話すことはなかった。
俺も凛も、お互い話しているとあの夏の日を思い出して辛かったから、話しかけることもなかった。
もし、あの夏の、全国大会の2回戦に戻れたら。
俺達はあの青学相手に、どういう試合運びをするのだろう。
最近、授業中に考えるのは、そのことばかりだ。
不思議とあの時、涙は出なかった。
そして泣くタイミングを逃したせいか、なんとなく置いてけぼりのように感じた。
「えー、甲斐!
大会終わったからってぼーっとしちょるんじゃないんどー?」
教科担任に言われて、俺は曖昧に頷く。
授業なんて、ただでさえ聞いていたくないのに、こんな気分の時に真面目に受けられないっての。
((先生。
勉強よりも大切なものって、あるんですか?))
昔、聞いたことがあった。
確か、小学生の頃だ。
先生は大袈裟に、かつ諦めたように、ため息をついて言ったのを覚えてる。
((今のお前には、勉強以上に大切なものなんてないよ。
ほら、勉強しなさい))
今の俺が聞いたら、あの人は何て言うんだろう。
やっぱりあの時のように、ため息をついて、同じことを言うのだろうか。
あぁ。
今日も、凛に話し掛けられなかった。