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9月の半ば、担任が席替えをすると言い出した。
わっと沸き上がる教室に、なんとなく胸がざわざわする。

良い気分転換になるかもしれない。

そう思ったのは事実で、もう俺はどうにもこの状況から抜け出せないでいたみたいだ。
引いた番号はイコールクラスの人数。
その番号の示す机の位置は、窓際、1番後ろ。
有り難い位置だと思った。

でも、移動してみれば、目の前に凛が居て、どうしようもない喪失感に襲われた。
俺の姿を視界に入れた凛が一瞬視線を泳がせた後、あぁ、と呟いた。

「裕次郎。
後ろ、なんばぁ?」
「…おー」

凛に声を掛けられて、頷くと、凛はそうか、と頷いた。
遠い目をした凛が、呟きながら俺から窓の外へと視線を移した。

気まずくて、俺は教室に視線を泳がせる。
すると、隣にはあの、冷たい表情をした転入生が居た。
じっと見てると、彼女はちらりと俺の方を見て、何事も無かったようにすぐに視線を黒板に戻した。

なんだろう。
いい気分転換になる、なんて考えてた少し前の自分を指差して笑いたくなった。
くじ運ないのかな、なんて思って、俺はこっそりと涙した。



新しい席になってから、お喋りが減った。
まぁ、もとから授業中に喋ることは少なかったけど。
少ない変わりに、喋るときは五月蝿かった気がするけど、それはきっと気のせいだ。

ある日の午後、授業をサボって、屋上に足を向けた。
なんとなく。
…本当に、なんとなくだったから、まさか屋上に転入生が居るとは思わなかった。

「あ…」

呟いた音が、相手に伝わったかは解らなかった。
でも、きっと聞こえたのだろう。
転入生は俺の方をちらりと見た。

でも、何のアクションも、何の言葉もなく、唯彼女は俺の方を見ていた。
どれだけの時間が流れただろうか。
わからないけど、何の気まぐれか、俺は彼女の隣に向かった。
唯、なんとなく。
…なんとなく、彼女の隣に並びたかった。

「……金城ひなさん」
「何?」

俺が彼女の名前を呟くと、彼女は間を置かずに返す。
彼女が転校してから、彼女とはほとんど話さなかったせいか、彼女のイメージはなにもない。
唯、初日の挨拶が簡潔で、あまり話すのは好きじゃないのかな、というくらいだ。

「わんぬ名前、知っちょる?」
「甲斐裕次郎」

彼女は俺の名前を何の躊躇いもなく言ってから、校舎へと向かう。
その後ろ姿をちらりと見てから、俺は空を見上げた。

「…あの金髪」

ふと、彼女の声が聞こえた。

「あぃっ?」
「あの金髪と、仲直りしたら?
鬱陶しい」

その言葉を残して、彼女は屋上から校舎に入った。
バタンと音を立てて閉まる扉を見つめて、俺は唯呆然としていた。
でも、すぐに自分を取り戻して、俺は盛大に笑った。

「仲直り、」

俺達は喧嘩した訳でもないのに。
何が面白いのか、自分でも解らずに、唯笑う。

ひたすら笑った後に空を見上げたら、いつも通りの澄んだ青だった。

でも、あぁ。
凛、気付いてるか?
空はこんなに澄んでいるんだ。

俺達の悲しみも、悔しさも飲み込んでしまうくらい、澄んでいるんだ。

「わったーもそろそろ、来年に向けて、進まなくちゃいけないみたいやっし」

時間は、止まってはくれない。
流れる雲を見て、その単純な事実に気が付いた。

青学は、きっと今日も練習してる。
来年、全国で会えた時に、簡単には負けられないから。
だから、早く俺達も練習しなくちゃ。

“仲直り”、して。