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私は妹に連れられて、近所の喫茶店に向かった。
イケメンの店員さんがいるから是非見てほしい、いや、むしろ私が今見たいと駄々をこねられたのだ。
妹とは一回り違うので、どうしても甘くなってしまう。
でもね、妹。
せめて見たいじゃなくて、会いたいって言いなさい。
ポアロには、マスターと女性の店員さんがひとりいる認識だった。
正直私が喫茶店に行くときは個人店ではなくチェーン店に足を運んでしまうし、こんな歩いて五分の距離にある喫茶店に寄ることもないので、外を掃除している二人のイメージがあるだけだが。
腕を引かれている内にそのイケメンの店員さんというひとの噂を妹から聞く。
褐色の肌にくすんだ金髪、青い瞳。
外国人風の見た目に反して安室透さんという純日本人の名前。
背が高くて、二十九歳という年齢の割に幼く見えるベビーフェイス。
二十九歳って、ニアピンじゃん。
今年三十になる私としては、正直恋愛的にもイケメン枠としても騒ぎづらいなぁ、と妹の話は右から左へと流していた。
カラン、とよくあるドアベルの音を鳴らしてお店に入る。
いらっしゃいませ、と響いたのは落ち着いた男性の声だった。
「あむぴー!
こんにちは!」
あむぴって何!
妹の言動に目を見開くが、恐らく件のイケメン店員は慣れたものでこんにちは、と笑顔で返している。
わお。
視界に映ったのは、予想以上のイケメンで私は目を瞬かせた。
同時にくすんだ金髪とか言っていた妹のボキャブラリーが心配になる。
落ち着いたハニーブロンドが、窓から差し込む太陽光の当たり方によって、金色に輝いている。
健康的な褐色の肌に、勿忘草色のその瞳。
まるで、…。
「おふたりですか?」
にこりと笑う彼に、はい!と笑う妹。
無駄のない動作でテーブル席を案内してくれて、メニューとおしぼり、お冷を置いていく。
注文は妹がパフェ、私がカフェオレだ。
「ね、かっこいいでしょ!」
そう言う妹は両手で頬を包み込んでいる。
確かにかっこいい、予想以上だ。
でも一個下ということと、芸能人でもない一般の方だと思うと、妹のようにオープンにはしゃげない。
「アンタ…社会に出る前にその言葉遣いとかいろいろ考えなよ…!」
「え〜?」
妹の言葉は敢えてスルーしてそう言うと、妹は妹でスルーする気まんまんの態度だ。
ほんと姉妹だな!と、こんなところで血を実感する。
姉妹で揃ってハマっているアニメの話をしていると、店員さん…安室さんがパフェとカフェオレを持ってきた。
「どうぞ」
改めて聞くことなく、それぞれが注文したものを置く彼はデキル男なのだろう。
かっこよくてデキルって最高じゃん、と心中思う。
「でもさー、お姉ちゃんの歴代推しに似てない?
あむぴ」
「似てない。
めちゃくちゃ似てない」
一瞬、自分の脳裏にも掠めた事実を妹に言われてしまった。
思わず照れ隠しも含めて断固拒否してしまったが、それでもやっぱり一緒にしないでいただきたい。
そもそも二次元と三次元ってだけで天と地ほどに違うし、私の推し達は誰にも代えられない唯一だ。
誰よりも何よりも可愛い可愛い天使だ。
とにかくそんな存在。
「でも、あむぴも笑顔可愛いし天使っぽいし」
「次その口開いたら潰す」
思わずそう言うと、後ろを通った安室さんがくす、と笑った。
ひぇ、イケメンに聞かれてた!
「ふふ、推しさんのこと、大好きなんですね」
「いえ、あの!
安室さんが悪いわけではなく!」
と直接自己紹介を受けたわけでもないのに名前を呼んでしまった。
私のばかぁ!
だが、妹から聞いていると察してくれたのか、そこはスルーしてくれる。
「いえ、気にしてませんよ。
僕にもわかりますし。
たとえどんなに似ていたとしても、唯一ってありますよね」
「そ、そうなんです!
あの子達は私の唯一なんです…!」
ふふ、と笑う安室さん。
わぁ、イケメンって好きじゃなくてもイケメンってだけでときめくんだなぁ、と齢三十にして理解した。
「はぁ…妹がかっこいいって騒ぐ理由がわかる気がします…」
「え?」
首を傾げて苦笑する安室さんにすみません、と謝る。
「でも、お客様も美人姉妹ですね」
そう言われて、私は妹と目を見合わせた。
そしてどちらからともなく噴き出す。
「あはは、そんなこと言うのあむぴくらいだよ」
「ほんと。
言われたことありませんよ、そんなこと」
そうですか?、と笑う安室さん。
随分リップサービスのうまいイケメンだなぁ、と思う。
「あの、お名前伺っても?」
「二城です。
二城ひな」
「私ゆな!」
妹が手を挙げて言う。
「ゆなさんは知ってます」
「だよねー」
ふふ、と笑う安室さんに同じように笑みを零す妹。
思っていた以上に仲がいいらしい。
「ひなさん、僕とお付き合いしてもらえませんか?」
「はい?」
「きゃあ!」
安室さんの唐突の発言に私は聞き返し、妹は色めき立ち、周りの女性からの視線が痛い。
そんな視線に耐え切れず、一瞬周りを見た視線はテーブルに行く。
ふと安室さんを見るとにこにこと笑ったままだ。
これ、緊張もしてなさそうだし、絶対本気じゃないよね…。
「えっと」
「はい」
口籠るとすぐに返答がくる。
ひぃ、なんのいじめだ。
「辞退させてください」
ぺこ、と会釈しながら答える。
そもそも手を挙げた覚えもないが、平々凡々な私にこの人の横に立つ自信は皆無だ。
人生で初めて受けた告白を、どんな断り方だ、と自分で突っ込める断り方をした。
「それは残念です」
にこにこと笑ったまま去っていく。
もう、完全に遊ばれてるじゃん、これ。
本気じゃないと知っていたけど。
「イケメンってずるいなぁ」
こういうことをしても許される人種なのだ。
にしても。
“それは残念です”、か。
どこかで聞いたことがあるような気がするのは、気のせいだっただろうか。