28
次の日、俺は部活をサボって海に来ていた。
勿論、ひなと最後に来た海だ。
携帯から目を離して、海を見つめる。
「繋がるかやー?」
海に聞いても、やっぱり海は答えない。
でも、いつも通りである海は、まるで肯定しているようにも見えた。
俺はふっと笑った。
考えても、仕方ないんだ。
俺がメールでも電話でも、兎に角どっちかをしなくちゃ、俺達に未来は無い。
電話帳を開いて接続。
虚しい電子音が続く。
ひなは普段、仕事中だと留守電にしてるから。
だから、仕事は無い。
続く電子音を耳にして、目を瞑る。
昔は辛かった電子音が、今は嬉しいものに思えた。
繋がって、繋がって……。
俺達の絆もまだ、切れてない。
「もしもしっ」
ひなの声がすると同時に、電子音は切れた。
あ ぁ 、 繋 が っ た 。
「ひな?」
解りきっていることを聞けば、小さな声で頷いた。
緊張、してるんだなぁ、なんて考えて、やっぱり嬉しくなった。
ひなが昨日、勇気を出してくれたから、俺も頑張らなきゃな。
今までひなに言えなかったこと、言うから。
聞いててくれよ?
「曲、ひっちー聞いちょる」
「…うん」
「CDもむる持っちょるさぁ」
「じゅ、じゅんに?」
「じゅんに。
テレビも、多分、むる見た」
「は、恥ずかし……」
あ、なんか今、ひながどんな顔してるか浮かんだ。
顔紅くして、頬押さえてんだろうな。
「ちょぎりーさー、会えないとうむたんはわんぬ方さぁ」
「あいっ?」
ひなのまぬけな声に心中笑って、俺は言う。
「自然消滅かたもうむたさぁ」
あまりにも、ひなは遠い人間になってしまった。
手を伸ばしても、届かないくらいに。
「わん、テレビであびてぃーくとぅ、むるしんけんさぁ!」
ガタって音がした。
椅子から立ったのか、それとも何か落としたのか。
ひなは唯、息を荒くした。
でも、手が届かない、なんて。
きっと俺が腕も伸ばさずに見ているだけだったから。
俺が腕も曲げずに、ひなに真っ直ぐと手を伸ばしていたら、こうはならなかったのかもしれない。
そんなことを思って、俺は苦笑した。
でも結局はこうなってしまった。
それはもう、変えられない真実なんだ。
だから、直していかなくちゃ
一つ一つ、ゆっくりと。
「わかっちょるさぁ。
わんが勝手んかいそううむただけやっしー」
「…うん」
ひなはまた小さく呟いた。
なぁ、ひなにそんな思いをさせたのは、俺のせいなのかな。
俺が勝手に、距離を感じてしまったから…………。
ひなは唯、夢を叶える為に頑張っていただけなのに。
正直、俺が聞きたいよ。
俺はひなを好きでいる資格があるのか。
でも、ひなから開いてくれた道だから、俺はそれに背いちゃいけないんだ。
「わんも、なまでも、なまも、やーを……、ひなを、しちゅんさぁ。
かなさそん」
電話の向こうで、息を飲んだ音がした。
遠くで、息を飲む音が聞こえた。
「にふぇーでーびる、凛ちゃんっ…」
震える声。
「泣くなって…」
勘で言ってみたら、本当にそうだったらしく、だって、と声をあげて泣いた。
「凛ちゃん、わんぬくとぅちょぎりーさーしかんなんだとうむてたからっ……」
「うんぐとーるくとぅねーらんっ!」
俺が声をあらげれば、ひなは、唯頷いた。
ふと見た海が、キラキラと輝いていた。
あぁ、綺麗だなぁ。
知らぬ間に呟いていたのか、ひなが何が、と聞いた。
「ん?
あぁ、海が、でーじ美らさんさぁ。
へーく、けーってこいよ」
「一月に、ね」
「長いやぁ」
ひなの言葉に呟けば、ひなは大丈夫、と笑った。
「もう、わったー、バラバラになんかならない!
やくとぅ、大丈夫さぁ」
「やだ」
「えっ」
電話の向こうで慌てるひな。
あぁ、可愛いなぁ。
電話やメールじゃ、一ヶ月も我慢出来ないんだよ。
だって、早く抱き締めたいんだから。