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最近、やたら犯罪が身近になった気がする。
自分の両親は高校の頃に事故で他界していて、引き取ってくれた祖父母も大学の頃に火事で他界した。
親戚にも疎遠な人しかおらず、連絡を取ることもない。
そんなあたしがもし事故や事件で死んだら、荷物は誰がどうしてくれるんだろう。
所謂「天涯孤独」になってもうすぐ十年。
あたしは、今日も一人元気に生きている。
祖父母の勧めもあって大学まで無事卒業した。
まだ少し奨学金の返済が残っているが、祖父母の遺産と節約の甲斐あって完全返済まではあと少しだ。
彼氏はいない。
友達はそこそこ。
職場もそこそこ。
家族というものがいないことは寂しいが、なんの文句もない人生だった。
ある日、仕事で役所まで外出した後、まっすぐ帰るのもつまらないと思って役所の近所の喫茶店で昼食を頂くことに決めた。
個人経営の雰囲気のよさそうなお店、ポアロの扉を開けて、あたしは辺りを見回した。
昼を少し過ぎたおかげか、混んではいなかった。
「いらっしゃいませ」
どこか耳馴染みのある声が聞こえて、あたしは店員さんの方を振り返る。
ばちり、と、目が合った。
健康的な小麦色の肌に、金髪、サックスグレーの瞳。
純日本人ではそうそう見かけないその色に、あたしは目を見張る。
「ふる、や…く」
降谷零。
中学生の頃の、同級生だ。
「おひとりですか?
お好きな席どうぞ」
にこり、と到底降谷くんとは思えない大人な笑みで案内をされて奥へと戻っていく。
なんとなく促されたテーブル席に大人しく座ってたっぷり10秒、あたしは頭を抱えた。
いや。
いやいやいやいやいやいやいや、いや?
え?別人?
そっくりさん?
そんなことある?
いや、あんな特徴的なイケメン他にこの世に存在しなくない?
お冷とメニュー、おしぼりを置きに来てくれた降谷くん(仮)をちらりと見上げると、にこりと微笑まれた。
イケメンデスネ。
「注文決まったら声かけてくださいね」
あたしが知っているものよりも、重低音が強い、少し癖のある独特な声。
見た目も声も、降谷零でしかないのに彼はあたしに対しての反応はない。
…きっと、あたしの事など覚えていないのだろう。
当時は家族もいて、どこも特出したところのない平々凡々な女子だった。
粗雑なところがあったけれど、その整った容姿でたくさんの視線を奪っていた彼からしたら、中学2〜3年の時に同じクラスだった女子なんて、モブでしかない。
そこまで考えると、一周回って気が楽になった。
モブなんだから、覚えてもらえてなくても仕方がない。
さて、せっかくいい雰囲気の喫茶店に来たんだからそれを楽しまなくちゃ損だ。
ハムサンドとカフェラテを注文して、カバンに常備している小説を手に取る。
微かに流れているBGMが心地いい。
いい昼休憩になりそうだ。
キリのいいところで小説を閉じた。
もう少し時間はあるが、これ以上先に進んだら止められなくなりそうだ。
残っているカフェラテを飲みながら外を眺めると、小学生と高校生の二人連れが店内に入るところだった。
「あ、安室さん!
お久しぶりです」
「安室さん、お仕事終わったの?」
「蘭さん、コナンくん。
いらっしゃいませ。
なんとか目途がついてね」
席に案内しながら会話をしている。
「今回は長かったんですね。
梓さんが心配してましたよ」
「あはは、朝怒られてしまいました」
あむろ、さん?
彼は、降谷くんではないのか。
他人の空似もここまで行くと芸術だな、と同じ顔を二つも作った神にある種の感謝をしたくなった。
目の保養をありがとう。
ふたりが注文したのを聞いてから、伝票を持ってレジにいく。
レジを打っている間もなんとなく容姿を眺めていたが、やっぱりそっくりだった。
「…あの、僕の顔、なにかついてますか?」
ふと、苦笑付きでそう言われて、あ、と声に出た。
「ご、ごめんなさい!
知り合いにすっごく似てたので、思わず…」
「あぁ、そうなんですね」
「ご兄弟とかいらっしゃいます?」
「僕、兄弟いないんですよ。
親戚にも似てる人はいないかと思います」
そっかぁ、と呟いてお釣りをもらう。
お財布をしまってから、ごちそうさまでした、と一言残してお店を出た。