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土曜日、近くのショッピングモールに買い出しに出た。
だいぶ古くなってしまった服や最近割れてしまった食器もまとめて買ってしまおう、と意気込んできた訳だが、まずったことに本日連休初日だ。
人の多さに辟易としてしまった。

「ミスったなぁ〜」

誰に言うでもなく呟く。
カフェで休むのにも一苦労だ。

やっと順番が来た、と思って案内された席に座ると、隣の二人掛けには先日会った降谷くん激似の店員さんと、髪の長い女性がいた。
美人さんだ。
ふと、…安室さん、と目が合う。

「あれ、先日の…」
「…こんにちは」

自分が働いてるカフェのお客さんと隣り合わせとか、さぞ気まずかろう。
申し訳ないことをした。

「お知合いですか?」

明るい方だ。
女性が聞くと、彼がポアロのお客さんです、と答えた。

「あ、そうなんですね。
私もポアロで働いてるんです!
良ければまた来てくださいね」
「ありがとうございます。
あの…客が横にいたら落ち着かないですよね、ごめんなさい。
あたし行きます」

席に着かずに、そのまま踵を返す。

「え!
気にしないでください」
「そうですよ。
僕たちは問題ありませんから」

即座に引き留められて、あたしは足を止めた。

「え…でも、デート邪魔するのも申し訳ないですし…」

くわ、と女性の表情が般若に変わる。
その様子を見てやっぱり、と苦笑する安室さん。
え、なに、あたし何か言った?

「安室さんといるとほんと碌な事ないですね」
「心外だなぁ…」
「え?」
「付き合ってないです。
こんな炎上案件のひとと付き合ったら大変。
お店に迷惑かけちゃう」

彼女の言わんとすることもわからないでもない。
つまり、こんなイケメンと付き合って、それが周知になってしまったら彼目当てで来ているお客さんから炎上されてお店に迷惑がかかる、ということだ。

「という訳で、同僚二人で買い出しに来ていただけなんです。
気にせずカフェを楽しんでいかれては?」

掌で席を促す安室さん。
にこにこと笑う女性の表情を見比べて、あたしは小さく息をついた。

「それでは、お邪魔します」

あたしの返事を聞いて、二人はにっこりと笑みを浮かべた。



お互いに自己紹介をした。
降谷くん似のイケメンは安室透さん。
長髪美女は榎本梓さん。

「みんな名前で呼ぶので梓って呼んでください!」
「はい。安室さん、梓さん、よろしくお願いします」
「二城さんはあの辺りでお仕事を?」

安室さんの質問に頭を振って答える。

「仕事でたまたま行って、雰囲気の素敵なお店だったから入ってみたんです」
「ありがとうございます、そう言っていただけると嬉しいです」
「ハムサンド、すごく美味しかったです。
もちろんカフェラテも」
「…あ、もしかして、蘭ちゃんとコナン君が居たときにいた方ですか?」
「え」

梓さんが人差し指をピン、と伸ばして安室さんに問う。

「あぁ、そうですよ」
「安室さんに似てるお知り合いがいるって言ってた女性!」

あぁ、なるほど。
蘭ちゃんとコナン君、というのはあの小学生の男の子と、高校生の女の子のことだろうか。
安室さんと仲がよさそうだったし、きっと梓さんとも仲がいいのだろう。

「ひなさんのお知り合いは、どんな方なんですか?」
「あたしのほうは…知り合いっていうか…。
中学生の頃の同級生なんです。
だいぶやんちゃな子だったので、安室さんにお会いした時は本当にびっくりしました。
こんな綺麗に笑うタイプの子ではなかったから…」
「すごく驚いてらっしゃいましたね」
「あはは、あの時はじろじろ眺めちゃってすみませんでした」

いえ、と笑う彼は、本当にイケメンだ。
降谷くんとこんなにも瓜二つなのに、こんなにも雰囲気が違うことってあるだろうか。

「その方とは今は連絡とってないんですか?」
「はい。
中学の頃きりでしたし…、高校の頃にあたし自身バタバタしてましたから。
あまり当時の友達の連絡先とか残ってないんです」
「そうだったんですね。
…残念」
「なんですか、梓さん残念って」
「そんなにそっくりな方なら、ちょっと並んでみてほしいなーって」
「…そんなところだと思いました」

やれやれ、と肩を竦める。
いろんな表情、仕草が様になる人だ。
ひとり絵の中から飛び出してきたみたい。

暫く三人で話してから、店を出る。
あたしは買い物の続きだ。
二人は店に買い出したものを置きにお店に戻るらしい。

「ひなさん、よければまた来てくださいね!
お待ちしてます」
「はい。
今日はありがとうございました、楽しかったです」

では、と微笑む安室さんと、二人の背を見送って、あたしはモール内のスーパーへと向かった。
夕飯の材料を買ったら帰宅だ。

うん。
いい一日だった。