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あの日、昼を少し過ぎて余裕ができたときに来店したのは、確かに中学時代の同級生だった。
二城ひな。
特別話したこともなく、接点なんかなかった相手。
きっと相手は覚えていないだろうと思っていたけれど、彼女はとても驚いた表情で僕の本名を呟いた。

そこに反応せずに席を案内して、お冷の準備をしていると、頭を抱えている彼女がいた。
相変わらず可愛い人だな、と心の中で笑う。
注文のやり取りをした後は切り替えたのか、バッグから小説を出して読み始めた。

彼女が昼食を食べてる横顔を時折視界に入れる。
窓際から零れる光が彼女の髪に当たって、儚く、でも温かい雰囲気が溢れている。
そうだ、教室や、図書室にいた彼女も、あんな雰囲気でよく小説を読んでいた。

僕が仲が良かったのなんてヒロくらいで、喧嘩に明け暮れていたけれど。
なんとなく、彼女のその温かさを見ているのは好きだった。






その週末、梓さんとポアロで使う食器を買い出しに行くと、彼女の勧めで喫茶店に入ることにした。
どうやらここのカフェラテが美味しいらしい。

お勧めと言われたからにはそのカフェラテを頼んで、舌鼓を打つ。
確かに美味しい。
豆と牛乳の素材がしっかりと感じられるそれは、コーヒーが好きでも苦手でも飲みやすいだろう。

ふと顔を上げたとき、梓さんの後ろに立っていた人物に視界が移った。
ぱちり、と目が合うと彼女は気まずそうに笑った。

「あれ、先日の…」
「…こんにちは」

自分たちになんとも言えない空気が流れているのを察したのか、梓さんが彼女と僕を交互に見る。

「お知合いですか?」
「ポアロのお客さんです」
「あ、そうなんですね。
私もポアロで働いてるんです!
良ければまた来てくださいね」
「ありがとうございます」

梓さんに返事をしてから、彼女は下ろそうとしていた荷物を持ち直す。

「あの…客が横にいたら落ち着かないですよね、ごめんなさい。
あたし行きます」
「え!
気にしないでください」
「そうですよ。
僕たちは問題ありませんから」

踵を返そうとした彼女の様子を見て、梓さんが止めたのに便乗する。
よかった、流石に自分がいたという理由で並んでいたであろう喫茶店から退店させるのも忍びない。

「え…でも、デート邪魔するのも申し訳ないですし…」

地雷だ、と思った時には既に遅く、目の前に梓さんの表情が変わる。
その表情を見て、彼女はビクリと肩を震わせた。

「安室さんといるとほんと碌な事ないですね」
「心外だなぁ…」

そもそも、喫茶店に寄ろうと誘ったのは梓さんだというのに。

「え?」
「付き合ってないです。
こんな炎上案件のひとと付き合ったら大変。
お店に迷惑かけちゃう」

梓さんの言葉を反芻して、あぁ、と納得した表情になる彼女。
僕自身は聊か納得がいかないが、付き合ってないことを納得してもらえるならいいか、とスルーした。

「という訳で、同僚二人で買い出しに来ていただけなんです。
気にせずカフェを楽しんでいかれては?」

掌で席を促すと、彼女は小さく息をついた。

「それでは、お邪魔します」



互いに自己紹介をした後、会話をしていると目の前の梓さんがあ、と呟いた。

「もしかして、蘭ちゃんとコナン君が居たときにいた方ですか?」
「え」

唐突に知らない名前が出てきて、目を瞬かせる彼女。

「あぁ、そうですよ」
「安室さんに似てるお知り合いがいるって言ってた女性!」

両手を合わせて言う梓さんに、曖昧に頷く。

「ひなさんのお知り合いは、どんな方なんですか?」
「あたしのほうは…知り合いっていうか…。
中学生の頃の同級生なんです。
だいぶやんちゃな子だったので、安室さんにお会いした時に本当にびっくりしました。
こんな綺麗に笑うタイプの子ではなかったから…」

やんちゃ、か。
物は言いようだな、と当時…否、本来の自分を思い返しながら平常を貫く。
今はいない友人たちが聞いていたら腹を抱えて笑うに違いない。

「すごく驚いてらっしゃいましたね」
「あはは、あの時はじろじろ眺めちゃってすみませんでした」
「いえ」

改めて謝罪をくれる彼女は、善良なひとなのだろう。
好奇心、と顔に書いてあるような梓さんがあの、と彼女に声をかける。

「その方とは今は連絡とってないんですか?」
「はい。
中学の頃きりでしたし…、高校の頃にあたし自身バタバタしてましたから。
あまり当時の友達の連絡先とか残ってないんです」

高校では彼女と違う学校だったし、本当に先日が中学以来の再会だったから彼女がどんな人生を送っていたのかはまるで分らない。
まぁ、バタバタしていなくても、僕と彼女が連絡を取り合うことはなかっただろうが。

「そうだったんですね。
…残念」
「なんですか、梓さん残念って」

だいたい想像はつくが、念のため聞く。

「そんなにそっくりな方なら、ちょっと並んでみてほしいなーって」

ビンゴだ。

「…そんなところだと思いました」

やれやれ、と肩を竦める。
残念ながら連絡が取れたところで僕は僕と並ぶことはできない。
目の前の彼女が、僕たちのやり取りを見て楽しそうに笑っていた。