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暫くすれば話題も僕とひなさんから他のことに移り、警察学校時代の思い出話等に花を咲かせる。
当時は学業や時折起きる事件の話をすることが多く、それぞれの生い立ちを話すことも少なかったので萩原の姉のことやヒロの兄のことを聞いていた。
気がつけばいい時間になっており、ひとり、またひとりと夢の中へと旅立っていく。
どうやら最後まで残ってしまったらしい。
簡単にテーブルの上だけ片して、寝ている五人の様子を見る。
…流石にひなさんをここに転がしておく訳には行かないか。
当然寝室が隣りなことは分かっているので扉を開けてから横抱きにした。
女性の寝室に勝手に入るのは申し訳ないが、今日は許してもらうしかない。
ダイニングから寝室に入り肘で扉を閉めたところで、腕の中の人物がもぞ、と動いた。
「ひぇっ」
同時に聞こえた小さな叫び声で、少し酔いが覚めたことが分かった。
「起きたか」
目が合ったひなさんは二の句を繋げず口をパクパクとさせている。
どうやら混乱しているようだ。
…まさか、僕が来たこと自体忘れてたりはしないよな?
一瞬頭をよぎったが、流石にアルコールが入る前のことまで忘れているということもないだろう、と割り切った。
「酒煽って潰れたから。
暫くはソファに寝かせてたんだが、皆も寝たし風邪引くと思ってベッドに寝かせに来たんだ」
ベッドに彼女を下ろしてから、彼女が酒を煽ったあとのことを伝えると、合点がいったようで表情が明るくなった。
「ありがとうございます…。
…降谷さん、帰る?」
職務のことを考えれば、帰るべきなのだろう。
車は後で取りに来ればいいし、服だってそうだ。
ポアロに持ってきてもらうでもいいし、ヒロと風見伝いで預かったって問題ない。
究極破棄してもいいくらいだ。
だが。
「いや、もう少し居るつもりだ」
呟いたのは、反対の言葉だった。
僕が本来すべきだと思っていることを、彼女も想像していたのだろう。
目を丸くしている彼女を見て、苦笑する。
「たまには、同期孝行しないとな」
そう言うと、彼女は表情を柔らかくしたあと、面白そうにくすくすと笑った。
その様子は、今までの僕に対する態度とは異なっており、少しこそばゆい。
「話聞いてて思ったけど、やっぱり降谷さんと安室さんって違うよね」
安室と皆はあくまで店員と客だ。
時折素が出ることもあるが、店内にいるメンバーを見つつ、その対応は調節している。
「安室は、あいつらと半年も馬鹿やってないからな」
「松田さんと殴りあったり、本来捜査しちゃいけないのに関わったり?」
「そういうこと」
学校生活あの半年で培われた絆は僕本人にしか存在しない。
それを安室に譲るつもりはない。
ふたりでクスクス笑っていると、ひなさんがくぁ、と小さく口を開けた。
気が抜けたのだろう。
その様子は守るべき対象、その象徴のようで愛おしい。
「疲れただろ。
眠った方がいい」
「うん、そうなんだけど…。
眠りたくないなぁ」
ポツリと呟いた、誰に向けたものでもない呟き。
ポアロで五人が揃った時のように涙は流さなかったけれど、その瞳は心底嬉しそうな色で満ちていた。
今の言葉も、そうなのだろうか。
ヒロが、そして僕が、揃っていることが彼女の願いなのだろうか。
だとしたら、何故?
僕とヒロは中学時代の、たった一瞬の接点しかない。
しかも彼女には殆ど意識がなかったのに。
萩原、松田、伊達は大人になってからの付き合いということもあり拘るようになるのはわかるが、それは僕たちには当て嵌まらないはずだ。
いつの間にかヒロの内側にいたこと然り、彼女には謎が付きまとう。
彼女自信を信じていないわけではない。
だが、彼女は一体、何者なのだろうか。
コナン君と同じ問いが、脳裏を過ぎった。
目の前の彼女は夢を見るような表情でベッドに腰掛けている。
その肩を押してベッドに寝かそうとすると、彼女はわー、と力ない声を発した。
その声に毒気を抜かれて、僕は溜め息を吐いた。
彼女の頭をがしがしと撫でると、ひなさんは一度目を細めたあと、目を見張った。
「降谷さん、本物?」
「偽物に見えるのか」
唐突の疑惑に反射で答える。
ベルモットといえど、安室ならともかく僕に化けた挙句にこの長時間同期たちに悟られないなんてことは無理だ。
一瞬の邂逅ならともかく、あの四人はそこまで甘くない。
「見えない」
少しの間逡巡していた彼女はそう呟いた。
本気で悩まれたら泣くぞ。
「君は一体どこで僕を見極めてたんだ」
「…企業秘密」
気まずそうに視線を逸らしたあと、ちらりと僕を視界に入れた彼女は、何を思ったのかふふ、と笑う。
「偽物の降谷さんと安室さんが現れても、私、絶対間違えない気がする」
唐突に自信満々な言葉。
「え、どうして?」
「企業秘密」
思わず問いかけると、先程と同じ言葉ではぐらかされる。
どことなくその態度にカチンときて、無防備な頬を柔く抓った。
ひなさんも僕の指を甘んじて受け入れている。
話してくれないだろうか、と思いつつ、その柔らかさが癖になる。
職務上女性の体に触れる機会は多いが、今まで触れたどんな女性よりも甘美に感じる。
ふにふに。
…にしても、分かっているのだろうか。
いくら隣の部屋に四人の身内がいるとはいえ、ベッドの上に男と女、ふたりきりだということに。
ふにふに。
信用されてるのか男と見られていないのか。
そのふたつのうちどちらにしても、なんとなく抗議したくなった。
ふにふに。
繰り返している内に、数日前のひなさんとのやり取りを思い出して僕は彼女をじと、と見た。
意識されていないことに対する不服も含めて、僕は指先に感情を乗せる。
ふにふに、ぎゅむ。
「いった」
夢心地で微笑んでる彼女の頬を全力で抓ると、漸く目を開いて不服そうに僕の顔を見た。
にっこり、と形容詞が着きそうな程に笑みを形作ると、彼女は漸く危機感を得たのか息を飲んだ。
「そう言えば、説教がまだだったな?」
「いやほら、私寝ないと」
力を入れて抓り始めると、さすがの彼女もばたばたと暴れ始める。
普段暴漢等を相手にしている僕としてはその身体を抑え込むのは余りにも容易い。
が、彼女は暫くの間必死に抵抗していた。
隣りで寝る四人を起こしたくないからだろうか、静かに抵抗していた彼女も、ぎぎ、と全力で抓ったのをきっかけにその口を開いた。
「いひゃいいひゃいいひゃいーーー!」
「うるさい。
あいつら起きるだろ」
「ひひゃ、ひょっくにおひひぇるれしょー!
ひぇんにー!もりょふひひゃん!らてひゃんまちゅらひゃん!!」
とっくに、どころか。
恐らく僕にひなさんを抱き上げさせるために揃って寝たフリをしたのだろう。
抱き上げた瞬間から気配が消せていない。
そもそも寝てない。
が、ひなさんも程度はともかく今現在寝ていないこと自体は察しているようで、声を張っている。
流石に名前まで呼ばれればあいつらも隠すつもりはないのか、寝室へとやってくる。
「ヤラシーことしてんのかと思ったらガキか、お前ら」
先頭で、欠伸を噛み殺しながら入ってきた松田以下三名。
思わず四人を見る視線の圧とともに指に力を込めると、下にいるひなさんが泣き叫んだ。
「いひゃぁああ!」
…ごめん。
さすがにやり過ぎた。