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好きだった。
大好きだった。

集めた漫画も、サブスクで見たアニメも、映画も。
在宅勤務の日はいつも見ていて、バレては上司に嫌味を言われた。
緩い職場だったから叱られはしなかったけど、いい歳の女がまたアニメか、なんて。
私の趣味は放っておいてほしい。

だって、気付けば三十周年を迎えたこのミステリーアニメは、私が小学校に通う前から続いているもので、まるで小鳥が親鳥を追いかけるように追いかけるのが当たり前の対象だったのだ。

特に好きなキャラがいたわけではなかったけど、その物語の終わりがずっと気になっていた。
そんな物語の印象が変わったのは、「ウェディング・ベル」というストーリーの時だ。
原作も七十五巻を過ぎて突然に出てきた私立探偵の安室透は、その物語の最後で毛利小五郎の弟子となった。

なんとなく気になった。
特別好きだったわけではないけれど、珍しい毛色のキャラだな、なんて思ってた。

それから時折コナンの周りをうろつくようになって、黒の組織の一員かと思えば、実は公安の刑事だったというのだから恐ろしい。
あの赤井扮する沖矢を追い詰めようと宅配業者の振りをして工藤邸に侵入したあの回を見て、人間らしさを見た。
愛想のいい作られた人形のような、綺麗な表情が、崩れたあの日。
私は、そのひとに恋に落ちたのだ。

安室透。
否。
降谷零に、全てを持っていかれた。






目を覚ました時、そこは真っ白な部屋だった。
恐らく病院だろう。
四年前、五日間泊まった部屋とは異なるが雰囲気は同じだ。

傍には萩原研二が居て、私が目を覚ましたのに気付くと頬を綻ばせた。

「大丈夫か?ひなちゃん」

風邪を引いた子供を安心させるように頭を撫でる。
その掌の温もりが涙腺を緩める。

だめだ。
全てを思い出してわかった。

だって、この温もりは、本当はもう失われていたものだった。
このひとは、私と出会ったあの爆発事件で、死んでいたはずだったのだから。

「はぎわら、けんじさん」
「ん?
そうだよ。
…なにか、思い出した?」

表情を真剣にさせた彼に、頭を振って変化がない旨を伝える。
彼と出会ったとき、私は記憶喪失だった。
多少変なことを言っても記憶がこんがらがっているということで片付けてもらえそうである。

実際には、自分の存在を根本から覆すほどの変化があった訳だけど。

彼はそっか、とまた表情を緩めた。

「今日はこのまま入院になるって。
…私ちゃんの両親には伝えてあるから、この後来ると思う」

年始に会って以来だから、十一か月ぶりだ。

「うん…ありがとう、研にぃ」

会うのが気まずいことに変わりはない。
たとえ、事故に遭う前のことを思い出せていたといても。