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大学二年の秋。
四年前の今日、私は一度死んだ。
今は筋力も体力も戻って一般の方と変わらない生活をしているが、通院だけは未だに続いていた。
一週間に一回が月に一回になり、月に一回が二か月に一回になり、二か月に一回が三か月に一回になり、半年に一回まで減った。

そしてあの日と同じ日付、たまたま私はまたこの病院にいる。

「…研にぃ」

横に研にぃを携えていた。
ふらふらとうろつく彼の腕を引っ張って清算エリアの傍で座る。

たまたま今日は非番だったらしく、病院に行くと言ったら付き添ってくれたのだ。
来てくれたのはありがたいが、看護師さんを物色するのはやめていただきたい。
切実に。

「なぁ、ひなちゃん」
「…なに?」

なんとなく、いつもよりも真剣な色のある声だった。

「…おにーさん、爆弾見つけちゃった」
「は…?」

二城さーん、と会計のひとに呼ばれて、私はお財布を持って席を立つ。
いつも通り会計をしてもらって、席に戻って座る。
研にぃの方を見ずに、声をかける。

「…ほんと?」
「嘘だったらよかったね」
「…爆弾処理班にいるっていうお友達は?」

携帯を眺める彼の声は低く、どうやらいい返事はもらえなかったらしい。

「向こうも爆弾解体中だね」
「間に合わないの…?」

爆弾の話が出てから、始めて彼を視界に入れると、いつもは綺麗に余裕のある顔が歪められていた。

「協力、してくれる?」

もし、体が動くなら彼は迷わず解体を始めただろう。
始めずに協力を仰ぐということは、今日は、動かない日の可能性が高い。
無謀だとはわかってはいるのだろう。
でも、ここでやらなきゃ全員死ぬだけだ。

「少しでも違うことしようとしたら、ちゃんと教えてね」

どうせ一度は死んだ身だ。
研にぃに助けてもらった命、研にぃに使わなくて、どうするというのだ。



「違う」

そう言われて、コードを切るために入れようとした力を抜いた。

「落ち着いて、ちゃんとできてる。
俺がいる」
「…うん」

割り切ったつもりでも、割り切れないのが人間というものだ。
母と父の記憶も、四年以上前の記憶も持ち合わせていないけれど、この世界に未練は残るらしい。

「一緒に死んだら、天国で付き合う?」
「ばか」

そんなつもりないの、研にぃの方のくせに。
もちろん、私も研にぃに恋愛感情は持ち合わせていないけれど。
そんな軽口を叩いたら、少し気が紛れた。
もう一度深呼吸をして、鋏を構えた。


ぱちん。
最後のコードを切ってから、私は大きく息を吐いた。

「っし、よくやったな」

軽く抱きしめて頭をぽんぽんと撫でてくれる。

「…終わった?」
「あぁ」
「ちゃんと、できた…?」
「モチロン」
「…爆弾処理してる友達に、連絡した?」
「今する」

思い出したように携帯を操作して、彼はパチンと二つ折りの携帯を閉じた。

「よし、警察来るまで茶でも飲むか。
何がいい?」

そう言って近くにあった自販機の前に立つ彼の横に立つ。

「コーラ」

今は炭酸を所望します。



買ってもらったコーラを飲みながら、警察の到着を待つ。
到着した警察は研にぃに事情と説明を聞いた後、大層な箱を持ってきて私が解体した爆弾を運んだ。
残った警察官に私も事情を聴かれた。
殆ど研にぃの言っていたとおりだったので、病院にいた理由と研にぃとの関係、解体した旨を伝えると頭を下げて去っていった。

「ハギ」

そう声をかけてきたのは、黒い癖っ毛のひとだ。

「よぅ、陣平ちゃん」
「爆発と縁が切れねぇな、総務のくせに」
「解体したのは俺じゃないけどね」
「ンだよ、そうなのか?」

研にぃが私を指差して助手、と雑に紹介した。

「…助手?」
「タワマンのときに助けた子だよ」
「あぁ!」

四年前の事件に思い至ったらしくなるほどな、と彼が笑う。

「俺松田陣平。
ありがとな、四年前、この馬鹿の命助けてくれて」
「助けられたのは、私ですけど…。
二城ひなです。
よろしくお願いします」
「ちょっと、助けたの俺じゃなーい?」
「防護服着てねぇアホを別のフロアに連れてってくれたっつーんだから助けたのはこっちだろーが」

差し出された手を握って握手を交わす。
それを、離した瞬間だった。

「いっ…たぁぁ」

頭が割れるように痛む。
ガンガンと頭の奥で何かが鳴り響く。

「ひなちゃん!?」
「おい、」
「ああああぁぁぁぁぁあああ!!」

発散しようと声を出しても、全く楽にならない。
助けて、助けて助けて助けてタスケテタスケテ。

「あむ…ろ、さ」