1
昔話をしましょう。
かつて、自分が大人だと信じていた時の、幼い私の話です。
あの時の私にとって、今この瞬間が、大事件になることでしょう。
いえ。
今の私にとっても、確かに大事件なのです。
まさか。
中学生の時に好きだった彼に、こんな所で再会するなんて。
私は全く想像していなかったのだから。
「ひなーっ!」
朝、親友の名前を叫んでから、一つの教室に入る。
「聞いてっ!」
ひなの机にバンッと手を叩くようにして置いて私は声を張った。
「ぬーがや、ゆい?」
ふわふわと笑うひな。
去年…中2の時に同じクラスで仲の良くなった彼女は、音楽の時間、別人になる。
なんていうか、オーラとか、そんなのが人とは違う。
取り敢えずそれはまたの機会にしよう。
兎も角、大変なんだ。
どうしようどうしようどうしよう!?
「甲斐君に挨拶されたっ!」
ひなの耳元で、小さな声で叫ぶ。
真逆の言葉だけど状況を理解して頂けたら非常に嬉しい。
「じゅんに?
よかったさぁ、ゆいっ!」
私の言葉に、ひなはぱっと笑顔を咲かせた。
あぁもう、どうしてくれよう。
この親友の可愛さはハンパじゃない。
いつもならぎゅう、と抱きつくが、今はそれどころではない。
「よくないんどーっ。
ちょぎりーさー緊張しちゃって、じゅんに悲惨!
まともんかいちらも見ずに逃げてきたさぁ」
「えー、勿体ない!」
その言葉を自分でも思うからこそ、言い訳もできなかった。
もしかしたら会話に繋げられたかもしれないと一瞬落ち着くと考えてしまう。
そんな自分の失態を誤魔化すために、私は慌てて話題を変える。
「ひなこそどうなんばぁ?」
「あぃっ?」
「平古場君!
誤魔化しても無駄だからねぇ!?」
ひなはきっと、絶対、平古場君が好き。
だって、ひなが平古場君を見る目は輝いてるし、なにより幸せそうだ。
それが平穏とか、日常だから、なんてものじゃないことくらい、簡単に想像が付く。
「わんが凛ちゃんを?
あり得ないさぁ」
苦笑する彼女を見て、私はやらかした、と思った。
そうだ、この子、多分絶対的に平古場君が好きだけど、多分いろんなものに邪魔されて告白出来ないんだ。
去年途中で気付いたことを改めて思い返して、私は再び誤魔化すために取り敢えず、と声を張り上げた。
「どうしよう……。
甲斐君がちょぎりーさー挨拶してくれなかったら……」
もしもの世界を頭の中で再生させたら、泣きそうになった。
あぁ、私、とっても彼が好きみたい!
放課後、教室でひなと話していたら、廊下を通る甲斐君と平古場君。
それをちらりと見てから、ひなを見る。
特に顔色も変えず、平古場君を見ることもなく。
ひなは話を続けていた。
好き、なんだよなぁ。
去年の様子を見る限りは。
なのに。
たった一年で、こんなに人は変わるのだろうか。
笑顔すら、ただ、見るということすら。
出来なくなってしまうなんて。
「ひな……」
話の区切りが付いたとき、私は声を駆けた。
「ぬーがや、ゆい?」
「………恋愛って、難しいさぁ」
「……やんやー」
苦笑した私に、ひなも苦笑で返した。
悩むのが、挫けるのが私たちの仕事だというのなら。
その先に幸せは待っているのでしょうか?