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夏休み、ひなの家に遊びに来たら、偶々平古場君に会った。

「……あ、具志堅?」

聞かれて、頷く。

「はいたい、平古場君」
「はいさい。
ひなんかい会いに来たんばぁ?」
「そ。
平古場君や、くりから部活なんば?」

聞けば、まぁな、と言って笑った。

「ここで裕次郎と待ち合わせなんだけどよ。
あにひゃー、来ねぇ…」

むすっとした表情、あぁ、このコロコロと表情の変わるところが、ひなは好きなのかな?
それとも、私なんかじゃ見つけられないようなところが好きなんだろうか。

「あはは、甲斐君、遅刻魔で有名やさ。
甲斐君ぬくとぅ、きちんと知らないわんでも知っちょるくらいやっさー」
「まぁなー」

平古場君はそう言って、また笑った。

「ゆい?」

声を掛けられて振り向けば、そこにはひなが居た。

「久しぶりやっし、ひな!」

ひなに手を振れば、ひなはにこりと笑った。

「やさ。
………凛ちゃん、部活や?
あんまーから凛ちゃんはずーっと部活、って聞いたんやしが……」
「くりからさぁ。
裕次郎待っちょるんばぁよ」

あれ。

「あぁ、甲斐君……。
まじゅん、待とうか?」

あれ。

「ゆたさんぬか?」
「もちろん!」

あっれー!?

にこりと今日一番の笑顔を見せたひなに、私は心底驚いた。

学校じゃ、あんなに平古場君と目も合わせようとしなかったのに!
なんで!?



それから十数分。
ニコニコと話してるひなと平古場君に、時おり相槌を打つようにして話に参加していた。

と、兎に角居づらい。
はやく。
はやく来て、甲斐君!

いつもだったら緊張しちゃうから思わないことだけど、今日だけは、今だけは、そう思っていた。

「あり、二城に具志堅?」

そんな中聞こえたのは、甲斐君の声だった。

「は、はいたい。
甲斐君」

私が声を掛けると、甲斐君はにかっと笑った。
ま、眩しすぎる!

「はいさい!
久しぶり、元気?」
「うん。
甲斐君は?」

甲斐君はにっと笑って、元気、と答えた。
あ、と呟いてから、気が付いたように平古場君を振り替える。

「あり、凛、部活やっし?」
「やーがにーさんから、まじゅん待ってくれたんばぁよ、くぬふりむん!」

甲斐君に殴り掛かるようにして声を張り上げる平古場君に、ひなはくすくすと笑った。

「うり、へーく行った方がゆたさんさぁ。
木手君、きっとゴーヤ準備して待っちょるから」
「や、やさ。
行ちゅんどー、裕次郎!」
「おー!」

そう言って駆けていく二人の後ろ姿を見送る。

「あっ」

聞こえたのが平古場君の声か、甲斐君の声かは忘れてしまったけど。
少ししたところで二人が止まって振り返った。

「にふぇーでーびる、ひな、具志堅!」
「じゅんに、にふぇーでーびる!
またなぁ!」

手をブンブンと振ってから、二人はまた駆け出した。

「っ……」

ひなが、私をちらりと見る。

「よかったね、ゆい」

その言葉で、余程私の顔が真っ赤で、そして微笑んでいるのだと想像がついた。

「うんっ」

開き直って頷けば、ひなはまたくすくすと笑った。






実は。
まともに甲斐君と話したのは、その時が最初で最後だった。
同じ時を、場所を共有することはあっても、きちんと話したときはその前も、後も一度もなかった。

唯、私は彼の人柄に惹かれ、好きになったつもりでいた。

そして、今。
二十歳を越えた今でも、そのつもりは続いているのだ。

私は、今も甲斐裕次郎という人が、“好き”なのだ。

別の人を好きになった時期もあったし、付き合っていた時期もあった。
私にとって甲斐君への思いは決して汚しちゃいけないもののような感じで。
その想いに嘘があった訳ではないけど、いつでもひたすらに別の人を好きではいられなかった。
私の心には、いつでも甲斐君が居た。