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気が付けば、私の人生はレールが引かれていた。
いつからと聞かれたら、きっとそれは、彼女に引き取られた日から。
物心ついたころには、既に実の両親は居なかった。
義母として彼女は衣食住や学校教育は保証してくれたが、躾などはされたことがなく、周りにいる人たちの真似をして生きていくようになった。
おはようございますも、こんにちはも、こんばんはも。
ありがとうもごめんなさいも、使うタイミングは分かったけど、何の為にある言葉なのかは理解できなかった。
でも、案外ひとって、それで生きて行けるものだ。
義母…ママの仕事を手伝うようになると、最早まともな教育を受けたのか不明な人と付き合うことも多くなり、尚更不自由はなかった。
だから、私は今日もわからない言葉を繰り返す。
「おつかれさま、そしてさようなら。
ネズミのおにーさん」
顔は整っている。
顎鬚を蓄えているけれど、不潔さはない彼は、大きく目を見張った。
ライとバーボンからひったくってきたスコッチをいつも通りに処理をして、私は家路についた。
それぞれ会ったのは初めてだったけれど、三人で行動しているのは知っていたからすぐにどれが誰かわかった。
ライが銃を向けていたところを見て肝が冷えたわ。
標的が取られる前に私の方で処理できてよかった、とひと安心だ。
こんな簡単な仕事、一度取られたら私に回ってくることなんてないじゃない。
帰宅途中ママから電話があったので通常通り終えたことを伝えると、そう、とだけ言って彼女は通話を切った。
心配なんて情のあるものではなくただの業務連絡だ。
無事家に着いてシャワーを浴びてから、常温の袋タイプのゼリーを飲み込んで私は床に寝転がった。
ベッドで寝る意味が分からなくて、幼い頃からずっとこうしている。
温かくて柔らかいベッドより、硬くて冷たい床の方が落ち着いた。
膝を抱えるように体を曲げて目を瞑る。
すぐに眠れるときもあれば、二、三時間とかかるときもある。
今日がどっちかはまだ分からないけれど、どっちでもいい。
そうして、夜が更けていく。