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組織の中で有名な女がいた。
それは、ベルモットの妹、スティル。
ネズミ狩りの後始末は彼女がやる、と。
組織で知らない人間はいないであろう人物だった。
あの日もそうだった。
ヒロからの連絡を聞いて駆け上がった階段の向こうには、拳銃を持ったライと拳銃を向けられているヒロ。
そして二人の傍に立っている黒く長い髪を靡かせる女がいた。
黒一色のワンピースを着た女が組織の人間だということは想像が着くが、誰かまでは分からない。
バーボンとしての顔で笑い、冷やかすように首を傾げる。
「…これは、なんの集会です?」
「こっちの台詞だけど?」
全く笑っていない目で笑う女は、ライの持つ拳銃を無視してヒロの腕を捻り上げる。
「私はスティル。
そう言えばわかるでしょ」
見た目は普通の女性と変わりないのに、要領のいい動きでヒロを落として背負い上げる。
「ネズミ狩りは私の仕事なの」
それだけ言って、彼女は屋上から去っていった。
あとに残されたライと僕は、一瞬何が起きたのかわからず立ち尽くしていた。
ただ、きっと、ヒロは助からない。
それだけが、視界を赤黒く染めていた。
数日後、案の定スティルがスコッチを始末したという噂を聞いて、僕はやるせない思いでいっぱいになった。
「…くそ」
日本を守る。
そのために働いてきたが、僕は友ひとり守れないで何をしている?
誰もいないビルの狭間で只管にコンクリートの壁に向けて拳を殴りつける。
手には擦り傷が出来ていて、血が滲んでいる。
こんな自暴自棄な傷跡は、組織の人間には見せられない。
そうは思うが、あの事件が起きた後は暫く、右手からも左手からも傷が無くなることはなかった。
少し畏まった服装に手袋をして誤魔化すこともあった。
今思うと、この頃の僕は完全に鬱だっただろう。
ただ、ヒロの仇を討つことだけを誓い、ヒロが途中になってしまった任務を最後まで遂行する。
その後のことは、終わってから考える。
改めて、そう覚悟を決めた。