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声を張り上げて挨拶。
どうも。
好きな人すらいない、中学2年生です。
きっとそれは普通のはず。
そんなにみんな、恋愛脳じゃないでしょ?

誰に挨拶したのかって?
3年前、つまり小5の時に死んだ父さんにです。
つまり今は、母さんと、お姉ちゃんと3人暮らし。
女だけの気楽な生活を送っています。

そして、その日の朝。
いきなり母が口を開きました。

「沖縄に引っ越すことになったから」

姉がそっか、と頷く。
母の故郷なんだか、それとも父の故郷なんだか。
まぁどっちか解らないけど、この際どっちでもいい。

「な、なんですとー!?」

2人の会話が終わってはや数秒、私は叫んだ。



「え、じゃあ来週には転校すんの?」

クラスの友達、赤也に言われて、私は頷く。

「もうほんっとイキナリ!
母さんってば何考えてるんだろ……」

小さい溜め息を、もう何度吐いただろう。
赤也はははっと笑ってから、私の頭をぽんと叩いた。

「ま、頑張れよ」

私はその言葉を聞いて、頭を机に伏せた。
正直、赤也なら一緒に文句を言ってくれるかと思ってたのに。
なんでお前は今日に限って、そんなに聞き分けがいいんだ、こんちくしょー。

「第一、お母さんの故郷が沖縄だなんて初耳だし」

そう、父さんが神奈川、この土地の生まれだったってのは知ってる。
おじいちゃんにもおばあちゃんにも会ったことあるし。
…ただ、それがどっちの両親だったのかは今日初めて知ったけど。

そもそも、母さんが沖縄出身だなんて初めて知った。

黙ってた理由も聞いた。
父さんの両親は結婚を許してくれたけど、母さんの方は許してくれなかったんだって。
でも、父さんが亡くなって、最近連絡をとってみたら、あっさり許してくれたって。

どうやら半駆け落ち状態は母さんの両親には堪えたらしい。

で、こっちに…つまり沖縄に住まないかって話しなんだって。
フザけてるー。

でもま、取り敢えず。

「荷物まとめなきゃ………」

はぁ。
今日一番の溜め息をついた。



家に帰る前に、テニスコートを覗く。
大会前のテニス部は、いつもよりぎゅっと詰まったメニューをしていた。

本当だったら、私もこの中にいるのにな、なんて思う。
でも、仁王先輩のペテンにはもうかからなくて済むなぁ、と一瞬考えた。
データでセクハラされることもない。
無意味に笑顔で脅されることもない。
やなことを押し付けられることもない。
ちょっとおしゃべりしただけで怒鳴られることもない。

なのに、なんで。

「なんで、視界がぼやけるのかなぁッ…」

いつの間にか、大切な仲間になってた嫌な先輩たち。
もう、去年のように、一緒には戦えないんだ。

「ありがとうございました」

小さく呟いて、私は立海を後にした。






最後の日、クラスの友達にプレゼントをもらった。
小さな、硝子細工。
可愛いなぁ、そう思うけど、これがお別れのプレゼントだなんて寂しすぎる。

こんな、簡単に壊れてしまいそうなものだなんて。



部活では、始めにミーティングを開いてくれた。
ほんのちょっとの、卒業式みたいなお別れ会。
レギュラーの先輩方からの言葉に、溢れそうになる涙は気のせいだと思う。
ミーティングも終盤、柳先輩が口を開く。

「ところで、金城が行くのは比嘉中だったな?」
「はい、確か」

頷くと、柳先輩はふっと笑った。

「如何やら、テニス部が強いらしい。
そこで、全国を目指したらどうだ」

そう言われて、私は一瞬目を見張る。
でも、すぐに口角を上げる。

「解りました。
じゃあ、立海を倒せるチームになってもらいます」

そして、全国でまた戦おう。
今度は、ライバルとして。