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沖縄に着いて、傍の海まで歩く。
「わぁっ、やっぱ綺麗!」
立海から少しだけ見える海とは違って、透き通っていて、輝いてる。
なんて素敵な海だろう。
昨日沖縄に着いた私は、おじいちゃんとおばあちゃんに初めて会った。
結婚を許さなかったと聞いていたから、どんな怖い人だろうと思ってたけど、とても優しい人だった。
顔は、ちょっとだけ濃いけど。
昨日の内に大きな荷物は片付け終わって、あとは細かいものだけ。
それは追々やってけばいいだろうと、私はこうして散策に来た。
荷物を整理する中で、私は久しぶりにテニスラケットを握った。
もう本気でプレイすることは出来ないけど、近い内に打ちたいなぁ、なんて思う。
やっぱり、テニスは私にとって特別なものだから。
「うらぁぁああぁっ!」
ぼうっと海を見ていると、場にそぐわない怒鳴り声。
何かと思って声のする方に顔を向けると、ハゲのおっさんが1人と学生の集団。
「もっと長くしーめー(潜れ)っ!
だぁでもやったー、うちなーんちゅか、あ゛ぁ!?」
…わぁ、解らない。
方言だという単純な事実なら解るけど、何を言ってるのかがほんっとに解らない。
私、ここでやってけるのかなぁ、なんて。
不安になるのも仕方がないかと。うん。
どうしよう、学校の先生があんな沖縄方言の塊、みたいな人だったら。
きっと、きっと大丈夫。
私は頭を振って、自分に言い聞かせるのだった。
今日から学校。
母さんに方言のことを聞いたら、今時使う子なんていないから大丈夫って。
じゃああの海のおっさんはなんなんだと問いたい。
けどまぁそこは諦めて、私は真新しい制服に身を包んで、ゴールデンウィーク明けの学校に向かう。
思ったより広い校舎。
中高大一貫の立海には当然劣るけど、普通の校舎のことを考えれば十分だろう。
さすが私立。
「よしっ」
自分に気合いを入れてから、私は職員室の扉を叩いた。
開けてみたら、扉の近くの先生と目が合う。
「転入してきました、金城です」
そういうと、その先生はあ、と呟いた。
「君が転入生か!
こっちおいで」
手招きをされて、そっちへ向かう。
「担任の宮嶋です。
よろしく」
この人が担任かぁ、と上から下まで服装チェック。
うん、まぁ許容範囲内。
「よろしくお願いします、宮嶋先生」
ぺこりと頭を下げる。
よし。
ニューライフの始まりだ。
クラスに向かって、挨拶。
HRが終われば、転校生のお決まりなのだろう。
多くの生徒に囲まれた。
「東京から来たってホント?」
「やまとぅんちゅ、初めて見た!」
私は見世物じゃねぇ!
そう思いつつ、私は愛想笑いでやり過ごす。
向こうからの言葉がやんだタイミングで、そういえば、と呟くと彼らはとたんに静かになった、
「ここのテニス部が強いって聞いたんだけど……」
そう聞くと、辺りがシンとした。
え、私、変なこと言った?
ただでさえ静かになったのに、さらにシンとするって何が起きたの?
思わず周りにいる生徒たちを見回すけれど、視線を逸らす子や席から離れていく子が続出する。
「えー、新垣。
やー、テニス部だよな」
そんな中、一人の男子が誰かに話しかける。
「そうだけど」
振り向いたのは、鼻にソバカスの乗った男子。
「金城さん、テニス部に興味あるみたいさぁ」
ソバカスの男子、新垣君は、私の顔をじっと見た。
品定めをされてる気分になって、ちょっと冷や汗。
生唾をゴクリと飲むと、新垣君は口を開いた。
「うんじゅや、先輩ぬ好みじゃねーらん。
諦めれば?」
なんでだろう。
ちょいちょい沖縄方言が含まれていたみたいだけど、意味がはっきり解った。
私が恋愛したくて言ったみたいに思われてる?
わなわなと手を震わせて、私は机を叩いた。
全員が私を凝視する中、私は努力して作った笑顔で新垣君に言う。
「テニスが好きだから、マネージャーやりたいだけなんだけど?
勘違いしないで貰える?」
そしてまた、クラスは静寂に包まれた。
隣の席の女子が、私の肩に触れる。
「あ、あの、金城さん?
じゅんに、マネージャーやるんばぁ?」
怯えきった顔。
あれ、私そんな酷い表情してる?
「やりたいけど。
前の学校でもマネージャーだったし」
「何処?」
新垣君が、聞く。
だから私は胸を張って答えよう。
「王者立海大付属」
私の、大切な仲間がいる学校の名を。
そうすると、新垣君は、目を見開いた。
そして、何か考えてから、放課後コートに来るように言われた。
…第一関門、突破?