始まりを告げる風

「ヒイロ、往くよ」

爽やかな風が吹く町、ワカバタウン。
私はそこで産まれ、育った。
初めに殿堂入りをしたのは何時だっただろうか。
もう覚えてはいないけれど、其の時から、相棒は一度たりとも変わっていない。

がう、と鳴いたヒイロを連れ、家を出る。
行ってらっしゃいとでも言いたげな母親に苦笑して、一歩目を踏み出した。

「カオリちゃん。又行くんだね」
「博士…」
「今度の旅は、何処を目指すんだい?」
「…さぁ?」

町自慢の研究所から顔を出した彼は、私の台詞に苦笑したが、この旅に目的地が無い事は事実だった。
もう一度、このジョウトを巡ろうと思ったのは確かだけれど、そこに目的も何も、意味は無い。

「では」
「気を付けてね」

返事は、しなかった。



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