始まりを告げる風

「おう。旅立つのか」

29番道路を入ってすぐ。
昔、私にポケモンの捕え方を教えてくれた男が声を掛けてきた。
頷くと、彼は何故だか嬉しそうな顔をして、又教えてやろうか?などと軽口を叩く。

「要らない。急ぐから」
「そう言うなって。な?」

執拗い。
五月蝿いと言って通り過ぎてやろうかと思ったが、どうも道を譲る気は無いらしい。
もう分かりきっているのに、またコラッタを捕まえる場面を見せられた。

「なんでまたコラッタなの」
「軽い儀式みたいなもんさ。気ぃ付けて行けよ」

彼なりの餞別だったのだろうか。
兎に角まずは、ヨシノを目指そう。
今度は短めの返事をして歩き出した。
トレーナーの1人もいないこの道は、出て来る野生のレベルも低く、比較的歩き易い。
ヒイロも心地良さげにしていた。

「あら、いい所に」

そんな折、女が私に声を掛けた。
バトルかと思ったが、そんな雰囲気は無い。
何か、と答えると、驚く事に、彼女は道に迷ったのだそうだ。

「初めてなのよ、ジョウト地方」
「…何でここに?」
「分からないから困ってるのよね〜」
「……行き先は?」
「キキョウシティ。ジムを巡りたいの」

新米トレーナーか?
キキョウシティならこの道を真っ直ぐ行って、…と手短にキキョウシティへの行き方を説明する。
聞いているのかいないのか、うんうんと適当な相槌が帰って来たので、溜め息が出た。

「聞いてないでしょう」
「あは、バレちゃった?」
「キキョウなら、私も向かうから、付いて来る?」

どうやらこれが、待ち望んだ言葉らしい。
彼女は嬉しそうに、頷いた。


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