※CWZ設定の為、夢主≠P。リクの幼馴染ヒロイン。 とある高層ビルの屋上で、金属がぶつかり合う鈍い音が響き渡る。 その中心では、アンドロイドの少年と私の幼なじみが、文字通り火花を散らしながら死闘を繰り広げている。 ――ああ、目の前で繰り広げられている戦いは、現実なのだろうか。 私はただ、見守ることしかできないでいた。 初めてADAMに出会った時は、少し無機質で真っ白な子だと思った。(いやまあ、アンドロイドなのだから仕方ないのだが) リクが色々なことを教えてやって欲しいと連れてくることで、幾度か接していくうちに徐々に彼と打ち解けていった。 "つむぎ、僕は貴女の親友ですか?" 最近では、本当に少しだけだが、話しながら微笑んでくれることもあった。 親友と言われたことが嬉しくて思わず抱きしめたら、少し怒られてしまったこともあった。 その彼が、リクを攻撃している。 「toeten、toetentoetentoetentoeten…。」 何度も何度も呟きながら、当たれば無傷では済まないような一撃を繰り出しているのだ。 アンドロイドと生身で素手の人間が本気で戦ったら、どちらが勝つかなんて小さい子供だって答えられる。 その、はずなのに。 「、っ!」 リクは、左眼を無機質な赤に染め、ADAMから繰り出された蹴りを左手で受け止めると、掴んでそのまま軽々と投げ飛ばす。彼の左手がADAMに接触する度に、金属の擦れる音が響いた。 目で追うことが難しいスピードで闘うリクに、私は唖然としていた。…あれは、本当にリクなのだろうか。あれでは、まるで 「…アンドロイド、みたい。」 ぽつりと呟いた言葉が嫌に大きく聞こえて、背中を嫌な汗が伝った。 ほんの少し前まで、ADAMを探していたと必死の形相で話していたのに、急に苦しみだすと機械のようになってしまった幼馴染。 "つむぎと一緒なら、ADAMに何かあっても安心だな。" そう言って嬉しそうに話していたリクに、今日1日で、一体何があったというのだ。 バキッと一際大きな嫌な音が、辺りに響く。はっとなって顔を上げると、互いに距離を取るリクとADAMが見えた。 しかし、当たりどころが良くなかったのだろう、ADAMがぐらりと上体を揺らし、ガシャンと膝をつく。関節の所々から火花を散らし、動かなくなる。 「…、目標、健在。排除。」 だけど、リクが歩みを止めることはなかった。彼自身も、激しい戦闘の中で身体中傷だらけのボロボロであるのに、何かに引き寄せられる様に真っ直ぐADAMへ向かっていく。 ――もう、見ているのも限界だった。 「っ、リク!」 声を荒げると、背中から抱きついて止める。どうすれば止められるか考えている余裕なんて、今の私にはなかった。 「…もうやめて。ADAMは貴方の大切な親友でしょ。」 決着はついた。そう思いながら、腕に力を込める。震えそうになる声を抑えながら、冷静に告げる。 …怖かった。このままではリクが、とても恐ろしいことをしてしまうのではないか、離れたら、リクがリクではなくなってしまうのではないか。そう、感じていた。 「…妨害、確認。」 聞こえたリクの声は酷く機械的で、ぞっとした。 顔を上げると、見たこともないくらい真っ赤な瞳が、私を見下ろしている。 「目標、変更。排除。」 「っ、あ」 逃げる暇なんてなかった。喉元を勢い良く左手で掴まれると、そのまま持ち上げられる。身体が宙に浮き、息ができなくなった。 「リ、ぐ…。」 離して。そう思い彼の腕を掴んだ手が何かを掴んで滑り落ちる。 その下から、鈍い銀色が見える。…機械の腕。大切な幼なじみの腕が、機械になっている。 …ああ、だからアンドロイドであるADAMとあそこまで戦えたのか。混乱よりも納得が勝り、そんなことをぼんやりと考えたが、首にはじわじわと力がかかっている現実は、変わらなかった。 「リク、…ダメ、だよ…、しん、ゆうは、…あ、だむ、は…あな、たの…、」 そこから先は、言えなかった。 今のガラス玉のような目のリクには、声が届かない。その現実が、酷く悲しく悔しくて、無力な自分に涙があふれる。ぱたぱたと、雨が降るようにリクの顔に私の涙が落ちる。それでも、彼の顔色が変わることはなかった。 「――っ!!」 遠くで、誰かの叫び声が聞こえた。ような気がして、視線を動かす。 ADAMが、驚きの表情で、私達の方を見ていた。 ああ、良かった。ADAM正気に戻ったんだ。薄れ、途切れ出した意識の中で、私は小さく笑った。 でももう、彼とは笑い合うことができない。…そのことだけは、少し申し訳なかった。 「あだ、む。ごめ…ね、リク、の、こと…おね、が…」 最期に、上手く、笑えただろうか。 そう考えると、私は、抵抗をやめた。死ぬなら、一瞬で終わらせたかったのだ。 その瞬間は、大きな打撃音に遮られた。 「つむぎ!!!」 ADAMが、リクを殴り飛ばすことで私を無理やり引き剥がす。 不意を突かれたリクから距離を取る形で、私を抱き抱えると後ろに飛んだ。 「…っ、大丈夫ですかつむぎ。」 「げほっ、…ぁ、ADAM、ボロボロ、じゃない…。」 「貴女も、…人のこと、言えないですよ。」 急に気道が確保されたことでむせながら、死闘で煤けたADAMの頬を軽く撫でる。傷つき、ダメージを負った身体からは、今も火花が飛んでいた。 「……つむぎ、貴女は、僕の親友で、親友の大切な人です。」 ADAMは私を屋上の床へ横たえると、そう呟いた。 「だから、僕は、貴女の為にも…リクを、親友を取り戻します。」 「あだ、む…?」 どうやって、そう聞こうとした声は咳になってしまい届かなかった。 ADAMは一度だけ私の手をぎゅっと握ると、リクへ向き直る。 「さようなら、つむぎ。…貴女とリクに出会えて、本当に嬉しかったです。」 そう言い残し走り出したADAMへ手を伸ばそうとするも、もう、意識が持たなかった。 …さようならなんて、そんな言葉、…簡単に言っちゃ…。 そこで、意識は途切れた。 ▼ 揺り起こされて目を開けると、ボロボロ泣いているリクの顔が目の前にあった。声をかけようとしたら、思い切り抱きしめられて、ちょっと痛かった。 肩越しに、横たわったADAMの姿が見える。…その表情は、非常に穏やかだった。 「……リク、ADAMは、」 「っ、」 彼がびくりと震えたことで、察してしまった。…だから、それ以上は聞かなかった。 目の前の景色がにじむ。感謝と祈りを込めて、私はそっと涙をこぼすのだった。 (ありがとう。心の優しいアンドロイド。私の、私達の、大切な親友。) (さようなら。) → |