※CW2捏造創作。名前変換なし、ヒロインは故人

“ハッピー、ねえハッピー”

『何ですか、###様』

“今日も、貴方の紅茶が飲めて嬉しいわ”

『ありがとうございます。家事サポートアンドロイドとして、これ以上の褒め言葉は御座いません。』

“ねえ、ハッピー”
“……私、いつ外に出られるのかしら?”

『――それは、』

“……冗談よ!大丈夫、今日の手術で絶対元気になるから!”
“だから、”

“手術が終わったら、また美味しい紅茶を淹れてね!”


そう言って微笑んだのが、あの人の最期の言葉だった。
……微笑んだ?本当にあの人は微笑んでいたのだろうか。
もしかしたら、不安に押し潰されそうになって泣き顔だったのかもしれない。
でも、もう顔も名前も思い出せない。あの人は、どんな顔だったのか。そう考えるたびに、私の記憶が消えていく。

ただ、最後に貴女に触れた手が、とても冷たかったことと

“###、様”

呼んだ名前が、嫌に耳に響いた事だけは、メモリに焼き付いて消えそうにないのです。


冷たいあの人を温めようと、紅茶を淹れた私を人間達は止めました。
私は家事サポートアンドロイドでしたから、当然の仕事をしただけだったはずなのに、人間達は、私を欠陥品だと罵倒しました

「――ぃ。」

私は、狂ってなどいないのに。
私は、主人であるあの人を温めたいだけなのに。
私は、おかしくない。
何故、何故邪魔をされる?
――私は、仕事をしなければ。

「――おい、」

ソウ、この目ノ前の人間タちを、貴女ノタメニ、排除……シナケレバ、

「おい、ハッピー!」

気がつくと、目の前に少し苛立った様なキースの顔と、その肩越しに心配そうに見ているアレックスの顔がありました。

「……キース?」
「たく、人が話ししてる時に意識トリップさせてんじゃねぇよ。」
「え、」

そうでした。ここは私達が寝ぐらとしている廃墟のアジト。
周りは全員アンドロイドで、勿論人間は1人もいません。

「すみ、ません。ぼんやりしていた様で。」
「また過去の記憶とやらかい、ハッピー。」
「ええ、……ほとんどノイズがかっているのですがね。」
「ハッピーの意識も戻ったところで、話を続けるぞ。K.G.Dの襲撃の件だが――」

私を置いて、キースとアレックス達の話し合いは続いていきます。仕方ありません、私は旧式の家事サポートアンドロイド。基本戦闘は専門外なのです。だから、襲撃などの話し合いは彼らの役には立てないのです。

そんな手持ち無沙汰な時、壊れかけたメモリの記憶が勝手に蘇るのです。
名前も顔も、もう分からない、貴女の記憶が。

でも、これは本当に私の記憶なのでしょうか。それすらも、私にはもう判別がつかないのです。

「――、様」

小さく声に出してみます
もう、呼び方も忘れてしまった、その名前を。

貴女は、今の私を見たら、どう思うのでしょうか。仕事をしている私を、褒めてくださるでしょうか。それとも、いつもの様に紅茶をねだるでしょうか。
……そうだとしたら、私も頑張りがいがあります。


私は、家事サポートアンドロイドのハッピー。所有者である貴女の、健やかな生活を守る為に、

人間ハ、チリヒトツ残サズ、排除シマス。



(あの時、壊れ切ってしまった方が幸せだったのだろうか)

title:羽根と片鱗