さくさくと、歩を進めるたびに足元から小気味良い音が聞こえる。昼間はあれだけ白く輝いていた砂浜も、今は夕闇の中落ち着いた様子を見せている。

WとS.E.Mで行っていたこの島での撮影も、明日で終了だ。そう思ったら、なんだか少し寂しくなり、私は砂浜をひとり散歩をしていた。

波の届かないところへ腰を下ろす。遠くに港の灯りがぼんやりと浮かんで見えた。

(――綺麗。)

波の音に耳を傾けながら、そっと目を閉じる。南の島なんて、仕事じゃなければ来ることはなかったかもしれない。テレビなどでよく見る風景の中に、今こうして私がいる事が凄く不思議な感覚であった。



「つむぎちゃん?」

不意に声がした。振り返ると、次郎さんが立っていた。

「次郎さん、どうしました?」
「どうしたって、君ひとりで歩いて行っちゃうんだもの。見失ったら困るから、追いかけてきたの。」

そう言いながら彼は、砂浜に残っている私の足跡を指差し苦笑する。背後に、私達が泊まっているコテージの灯りが見える。少し遠くにぼんやり浮かぶそれに、どうやらだいぶ歩いてきてしまっていたのだと気づいた。

「ごめんなさい、砂浜を歩くのが楽しくてつい。」
「はは、そっかそっか。……まあ滅多にこんな広い砂浜、日本じゃ歩けないもんねぇ。」

そう言うと、彼は手を差し出す。

「そろそろ花火が上がるって、さっきはざまさんが言ってたよ。戻ろ?」
「あれ、もうそんな時間でしたか。」

あたりを見回すと、空は歩き始めた時より暗く染まっていた。服の裾に付いた砂を払い、差し出された手を握り立ち上がると、ふと目に入るものがあった。

「どした、つむぎちゃん。」
「……星が、」
「星?」

私が指差す方を、彼も見上げる。そこには、きらりと光る星々が姿を見せつつあった。

「はー……こりゃ凄いもんだ。」
「なんだか、日本より近い感じがしません?」
「手が届きそう?」
「そう、そんな感じ。」

言いながら、私はえいっと跳んでみる。届くはずはないのに、なんだか届いちゃうんじゃないかって、そんな気がした。

「こらこら、あんまはしゃぐんじゃないの。」

苦笑しながらも、次郎さんは私の手を握ったままでいてくれた。

「だって、こんなに近い星空なんですもん。次郎さんはわくわくしないんですか?」
「俺?……まあ少しはわくわくするけど、そこまででもないかねぇ。」
「えぇー……。」
「だってさぁ、」

頭を掻きながら次郎さんが呟く。

「俺の手に入れたい星は、もう捕まえてるし。」

視線を、彼へ向ける。
目が合うと、彼が微笑んでいる。握ったままだった手が、もう一度握り返された。

「……それちょっとずるくないですか。」
「ははは、なんのことやら。」

言いながら、私は次郎さんの腕の中に収められる。耳に届く鼓動の音と波の音が混ざり合って心地良かった。

「……俺のお星さまは、ここに居るから良いの。」


だから、俺の見えるところにいて。


そう言いながら、彼は私に唇を寄せる。軽く触れた瞬間、遠くで花火が上がる音が聞こえてきた。

「……花火、始まっちゃいましたね。」
「まあ、今から歩けば多分終わるまでには戻れるんじゃない?」

お互い視線を合わせると、どちらかともなく笑った。
改めて手を繋ぐと、私達は砂浜を歩き出す。今度は、ちゃんと隣にいる事を確かめながら、歩いていく。

夜空の星々は、一層輝いて私達を照らしていた。