「みてみて、プロデューサー!」
スタッフさんと打ち合わせをしていた私の腕を、くいくいと可愛らしい手が引っ張った。

今日はもふもふえんとBeitの6人でテレビ番組の撮影に来ている。
346プロの十時愛梨ちゃんと諸星きらりちゃんが出演している『とときら学園』、そのスペシャル版への出演だ。
普段は同じ事務所のメンバーとの仕事が多い私達にとって、他事務所のアイドル達と共演する事は互いに切磋琢磨出来るし、良い刺激を受けられる機会であった。

今回は恭二とみのりが先生役、もふもふえんとピエールが生徒役で出演という形になるわけなのだが、その衣装が

「おお…なんというか、違和感ないですね。」
先生役はエプロン、生徒役はスモックなのである。

「みてみて〜、ちゃんと、しっぽもあるんだよ〜。」
「すげーだろ!!」
「に、似合いますか…?」
可愛いでしょーと嬉しそうに笑いながらその場をくるくる回るかのんくん。成る程、しっぽ付きスモックとはスタッフやるな。直央くんと志狼くんにもちゃんと付いており、ユニットの特徴を生かして頂いている事に感嘆する。

「やふー!カエールもお揃いー!」
同じく嬉しそうにしているピエールの手元には、此方も恐らくお手製で用意して頂いたであろうスモックを装備したカエール。なんとも芸が細かい事だ。後で衣装さんにお礼を言っておかないと。

そんな生徒組に囲まれた先生組はというと、
「みのりさん、顔、顔。」
「だって恭二…とときら学園だよ…あのとときら学園だよ…っ!」
背後に満開の花が咲いてそうな勢いで顔が緩みきり、視線があらぬ方向に向いたみのりさんと、そんな彼に若干顔の引きつった恭二くん。なんとも対照的である。

「おーいみのりさん、みのりさーん。帰って来て下さーい。」
「諦めろプロデューサー。着替えが終わった段階からこうだ。」
「…まあ、リハになったら帰ってきてくれるよ、うん。」
乾いた笑いを零すと、やれやれと言わんばかりに溜息をつかれた。なんだよう。

「しかしこうして見ると…、」
「…ああ、スカウトされた時みたいだな。この格好。」
言いながら着ている青いエプロンの裾を摘む恭二くん。なんだろう、その動作ですら格好良く見えるのはきっと気のせいじゃない気がする。


「あっ、ぷっろでゅ〜さ〜ちゃぁん!」
背後から星が飛んできそうな元気な声。振り返ると、346プロの諸星きらりちゃんがいた。
ふわふわとしたウェーブヘアをなびかせ、パステルカラーの可愛らしいエプロンを身に付けた彼女。話し方がまた特徴的ではあるのだが、更に他のアイドルと一線を画す所がある。

とにかく、背が高いのだ。





「きらりちゃん、今日は宜しくね。」
「こちらこそぉ〜、315プロの〜お友達とも、一緒にはぴはぴするにぃ☆」
にょわー☆とにこにこ手を握られる。ほんと、元気とハッピーがいっぱい詰まってるアイドルだ。こっちもにこにこしてくる。

不意にぐい、と腰のあたりを引っ張られる。気がついたらもふもふえんの3人が集合している。彼らだけではない、ピエールくんに恭二くんも近くにいるし、みのりさんですら花畑から帰ってきた。まあ、恭二くんより大きいしね、きらりちゃん。びっくりするよね。あ、直央くん固まってるけど大丈夫かな。

「プロデューサーさん、」
くいくいとかのんくんが服を引っ張る。視線の先は相変わらずきらりちゃんだ。
「ああ、紹介するね。彼女は」
「なあなあ!どうやったらそんなに大きくなれんだ?!」
こら志狼くん、初対面の女性にいきなり何をって、あー…目がとてもきらきらしてるー…。

「んー、キミはきらりんみたいにぃ、しょーらいおっきくなりたいにぃ?」
「おう!俺はこれからビックになるからな!」
「ぼ、僕も、お姉さんみたいに大きくなりたいです!」
「かのんも!なれるかなぁ〜?」
わっときらりちゃんを取り囲む3人。こういう時の子供の度胸と順応性にはびっくりする。さっきまで腰に集合してたのが嘘みたいだ。あっという間に質問責めだ。


「う…うぇへへ、なんだかそう言われると、きらりん照れちゃうけど、とぉ〜っても、うれすぃにぃ☆だから、みんなにも、はぴはぴお裾分けするにぃ☆」
言いながらポケットから取り出したのは、可愛い包み紙に入ったカラフルなマシュマロ。おっすそわけ〜と楽しげにもふもふえんだけでなく、Beitの皆にも配っていく。(あ、みのりさんが昇天しそう。)

「えっとお姉さ…じゃなかった。きらりさん、なんで幸せのお裾分けが、マシュマロなんですか?」
「きらりんでいいよぉ、えーと、なおくん!だってぇ、マシュマロはぁ、ふわっふわで、甘くて、幸せの味だにぃ。だからぁ〜」

みんなにも、幸せでいーっぱい。大きくなって欲しいにぃ☆

そう言いながらその場の全員を魅了する様なウインクしてみせるのだった。






「…ぷっろでゅーさーちゃん。」
撮影後、きらりちゃんに声をかけられた。
「今日は本当にありがとう。おかげでうちのアイドルもリラックスして撮れたよ。」
「ん〜ん。きらりんも、しゅごい楽しかったにぃ。」
と言いながらうぇへへと笑うきらりちゃんは嬉しかったなぁと呟いた。

「もふもふえんは、ほんと〜にいい子達だにぃ。きらりん、今日ほど身体がおおきくて良かったなぁって思ったこと、なかったにぃ。」

一緒に共演させてくれて、ありがとう。そう言いながら頭を下げる彼女は本当に嬉しそうで、

「また遊びに、ううん、一緒に共演しよ!今度は、他の子達も!」
思わず口を付いて言葉の前に、輝くはぴはぴ笑顔。

「きっらりー!幸せマシュマロもういっこ!」
「し、しろうくん!走ったら危ないよ…!」
「かのんピンクのマシュマロがいいなー。うさぎさんマシュマロ!」

わーと押し寄せるもふもふえんに、あっという間に囲まれるきらりちゃん。3人とも相当なついた様で、少し離れがたい様だ。


「きらりも、もふもふえんも、みーんな幸せ笑顔。コナモノ、いーっぱい食べた時みたい。」
「…本当にね、今日のお仕事大成功だ。」
いつの間にか戻ってきたBeitの3人と、微笑ましく目の前の光景を眺める。次のお仕事までの時間は、まだ余裕があるから、もう少し一緒に居させてあげられそうだ。



(後日315プロのコラボカフェメニュー案で、もふもふえん担当のドリンクにマシュマロが増えたことに、私は思わず笑みを浮かべるのだった。)