0時。今日も日付が変わった。

時計の針が天辺に揃った時、普段はそうでもないはずなのに、何故か、そう今日だけは、何処か身体がそわそわしだす。

我ながら、変な感じがする。
その日を迎える時を楽しみにする感覚なんて、過去の何処かに置いてきて忘れたものだとばかり思っていた。





『お誕生日、おめでとうございます。』

事務所に入った最初の年。そう言って、君はにこにこ笑ってくれた。俺はというと、あまりに突然すぎて反応が出来なかった。

『……どうしたの突然?』
『えっ、今日、誕生日ですよね?』
『ああ、うん……そうだけども。最近、そうやって祝われた事がなくてさ。』

事実、成人して働き出してからなんて、生徒にたまーに言われる以外は、同僚からも祝われたなんて記憶は、殆ど無かった。だから、俺はどう返して良いものか分からず、頭をかいて笑って誤魔化した。

生まれた日を祝うなんて、もう、遠いところにいってしまった、俺には縁遠い事だって、そう思っていたのに。

『なら、私が毎年ちゃんと言ってあげますよ。』
『えっ、良いのにそんなこと。』

祝われなくても、寂しいとかそんな事は思う歳でもない。そう思っていたのに。

『だって、その日に次郎さんが産まれて来なかったら、私は今会えていませんよ。』

なんて、笑顔で君が告げるから、俺は言葉を失った。

『……そっか、会えてない、よね。確かに。』

やっと出た言葉は、大したことを言ったわけじゃ無いのに、なんだか初めて言う言葉のようで、少しぎこちなかった。

『だから、毎年祝わせてくださいね。』
『はは、分かったよ。……祝ってくれてありがとね、つむぎちゃん。』

俺の誕生日が、少しだけ暖かくなって、ふわりと色付いていく。そんな予感がした。





0時になって、ひとりそわそわする後ろで、かちゃりと鍵の開く音がする。
振り返ると、息を切らした君がドアを開けて立っていた。

「っ、じろー……さん、」

肩で息をしながら、君が部屋へ上がって向かってくる。その様が、俺のためなんだって思うと何だか嬉しくて、頬を緩めながら両腕を広げた。

「お帰り、走ってきたの?」
「ん、へへ……まあ、そんなところ、です。」

ぎゅ、と抱きしめてあげると背へ腕を回される。
少し乱れている呼吸を整える様に背中を撫でてやりながら、今日だけしか言われない、その言葉が早く聴きたくて、俺は顔を寄せた。

「次郎さん。誕生日、おめでとうございます。」
「……ありがと、つむぎちゃん。」

互いに視線を合わせると、小さく笑ってそのまま口付ける。それが、酷く幸せであった。

今日は、1年の中で一番大事な、君が拾ってきてくれた、幸せな日。


Happy Birthday 山下次郎
2019.9.1

title:誰そ彼