※『無垢なる星に願いを』続編 CW2時空設定。捏造しかない上にSF(凄くふわっと)している。無駄に長い。 幼馴染がサイボーグと化し、大切な親友を喪った日。私達は人と機械が共に歩む道を作る意思を託された。 それから間も無く、アンドロイドの反乱が勃発。エンドーさん達の所属しているK.G.Dとロイ率いるアンドロイド達が各地で戦いを続けている間、私はP.G.Dを辞めたリクと共にケヴィンさんが残した地下の研究施設に転がり込み、2人でADAMの残したものを守りながら、全ての元凶となったイーサン博士の行方を追っていた。 ……あれから2年。世界はADAMの願いとは裏腹に、争いはまだ続いている。 K.G.Dの一部過激派によるアンドロイド狩りに、ロイの亡き後を率いるカリスマの登場。イーサン博士の行方はというと、戦乱の裏で暗躍していることだけは分かっているのだが、影のように実体がなく、私達は一向に行方を掴めずにいた。 そんなある日、いつもの様にリクが情報収集に地上に上がった事で事態は大きく進展することになった。 「おい、つむぎ!手を貸してくれ!メンテナンスの用意だ!」 「メンテ?リクまさか交戦した……って、アンドロイド?!」 いつもなら、破壊されたアンドロイドのメモリやパーツを拾って帰ってくるだけだったリクが、人を2人担いで帰ってきた。 1人は、特有の白い衣装を身に纏った男性型アンドロイド。もう1人は、リクと同じ様に片腕が機械であるものの、服装からしてK.G.D捜査官の様だ。 「この2人を治療する。アンドロイド用ポッドの用意と、……この人は新しい腕を用意してやらねぇとダメかもな。」 「リク、この2人何処から持ってきたの?」 「地上で、アンドロイドとK.G.Dが衝突しててな。俺は影で様子を伺ってたんだが、その……、どうにも、な……。」 「……リク?」 歯切れが悪そうなリクに、私は首を傾げる。リクは、少し言い淀んだが言葉を続けた。 「……K.G.Dの人間の1人がアンドロイドで、そいつを中心にアンドロイド達が、突然暴走を始めたんだ。」 「……暴走?」 機械と戦う集団であるはずのK.G.D内にアンドロイドが居た。それ自体も衝撃的だったのに、それ以上に暴走というワードが、私の記憶を揺すった。 “――toeten” 「まさか。あの時と、ADAMの時と同じ?」 「……ああ、辺りにいたアンドロイドの意思に関係なく、まるで思考を塗り潰されている感じだった。」 ひゅっと息を吸った私に、リクが小さく頷く。 「んで、その渦中から難を逃れてぶっ倒れてるこの2人を拾った。……正直、メンテナンスは表向き。何が起きたかメモリを覗かせてもらうために連れてきた。」 話しながら、リクはテキパキとアンドロイドへ電極を繋げ、ポッドへ横たわらせる。 最初の頃は、私達にアンドロイドの整備なんて専門外だったのに、リク自身のメンテナンスに加え、外部から持って帰ったメモリの解析をかなりこなしていたから、今は手慣れたものだ。 私はというと、人間の男性の義手パーツの破損個所を確認していた。大きな負荷が掛かったのだろう、パーツ同士をファイバー繊維がなんとか繋ぎ止めている状態で、リクの言う通り新しい腕が必要だった。 「っ、よし。映像出るぞつむぎ。」 リクの声に顔を上げると、アンドロイドのメモリに残った映像が、ノイズ混じりながら映し出された。 少しつり目で金髪のアンドロイドと、栗毛の優しそうな目をしたアンドロイド。その傍らには男性――着衣から、今ここに横たわっているK.G.Dの捜査官だろう、名前はソルというらしい。彼らが何かを話し込んでいる。アンドロイドの暴走ウイルスを探す間、一時の共闘関係にあったようだ。 そして、場面が変わり、私は目の前の映像に息を飲む。 くすんだ赤髪のK.G.D捜査官が、何事かを呟いた。その瞬間、辺りにいたアンドロイド達が苦しみだし、感情を失い、牙を剥いた。――先程映っていた2人は、このアンドロイドの大事な仲間だったのだろう、映像のブレから、彼の動揺が伝わってきた。 これが、先程リクが言っていた暴走の瞬間なのだろう。私は、呼吸忘れたかのように見ている事しかできなかった。 「……大丈夫か?」 顔色悪いぞとリクが声をかけてきた。そういう彼も、あまり良い表情ではなかった。 映像の中のソルさんが、アンドロイドを暴走させた捜査官へ何かを叫んでいる。……彼もまた、大事な仲間を失ってしまったのだ。 何か爆発のような衝撃が起き、映像が切れる。メモリに残っていたのはそこまでだった。 ……あの時と、同じだった。 リクが突然苦しみ、静かになったかと思うと突然機械のように感情が失われたあの時。今も、地上に同じようになったアンドロイドがいるのだと思うと、私はある事を行わなければという思いに駆られた。 「……あのさ、リク。ソルさんの腕のこと、なんだけど、」 「あー……、多分、俺も今つむぎと同じことを考えてた。」 何か覚悟を決めたようなお互いの視線が交差し、ある一点に集まる。その先には、あの日からずっと守ってきたADAMの腕が保管されたケースが置かれていた。 あの日、リクを暴走から助けてくれた力が、この腕に宿っていた。それはケヴィンさんがADAMへ残してくれた優しい力。ただ、その能力がどういう状況下で発生するかは私達では解き明かすことは出来なかった。 分かっていることは、操られ暴走状態に陥った機械を、正常な状態へリセットできるシステムであること。であれば、映像の彼らにも有効である筈だった。……リクとADAMの時のように。 「でもさ、……出来ると思う?」 「この人は、あの捜査官を……仲間だったアンドロイドを止めようとしていた。このアンドロイドも、仲間を救おうとしていた。……だったら、この人達に今必要なのは、ADAMの力だろ、」 だから、信じて託すだけだ。 そういうと、リクはソルさんの腕へケースから取り出したADAMの腕を繋いでいく。幸い、型番が似ていたのだろう、接続時に不具合は起こらず、データリンクは正常に行われた。 「……貴方達に、ADAMの意思を託します。」 そう言いながら、私はソルさんに繋がったADAMの腕を撫でる。その様を、リクがじっと見つめていた。 「……不思議なもんだな。こうやってアイツの意思が、暴走を止める鍵になるなんてな。」 「不思議じゃないでしょ。ADAMは……ケヴィンさんが人類とアンドロイドの架け橋になる為に作った“希望”なんだもの。」 「……そうだな。」 ぽんと、リクが私の頭を撫でる。その時、背後のポッドから電子音が響く。どうやらアンドロイドの彼の方も調整が終わったようだ。 「さてと、……この2人を上の部屋に置いてくる。」 そういうとリクは、軽々と2人を抱えて持っていく。(最初の頃は、人間離れした力を見せるリクに驚くこともあったがもう見慣れてしまった。) 施設には、私と空になってしまったケースだけが残された。 「……ADAM、彼らを助けてあげて。」 空になったケースを抱えて指でなぞり、そっと呟く。……誰にも聞こえていないはずなのに、私のそばを風が吹き抜けたから、思わず振り返った。 “――任せてください、つむぎ。” 誰も居ない空間に、ADAMの声が聞こえたような気がして、私は小さく笑ったのだった。 (逆転の一手は、今解き放たれた。) → |