「輝さーん、天道輝さーん。起きてますかー?」
「ぃよってまぁーすぅーよぉー?」
「…ダメだこりゃ。」


朝から取材に撮影と走り回っていた私とDRAMATIC STARSの3人。全ての予定を終わらせた後、今日のねぎらいやライブの成功祝いも込めて食事に誘った。
値段以上の料理を出してくれる、私のお気に入りの店へ連れて行ったのだが、3人ともいたく気に入ってくれた。楽しげに食事をする姿を見ていると、1日働きづめだった心も、癒されていく。
美味しい食事があれば、もちろんお酒が進む訳で、このお酒が少々良くなかった。輝さんが、思いきり酔っぱらってしまったのである。

明日の朝から仕事のある薫さんと翼くんをそれぞれタクシーで送らせ、万が一に備えて飲んでいなかった私が、べろんべろんの輝さんを送る役目を買って出たのだが、

「あれぇ、なんかむずかしい顔をしてるねぇー。」
へらへらと陽気な酔っ払いが邪魔をしてきてかなり難易度が高かった。輝さん絡み酒なのか…!

「ちょ、ちょっと輝さん!運転中です運転中!」
「えぇー、動いてないだろぉ車ー。」
「いや動いてますから。危ないんで勘弁してください!」

言いながら片手で頭へ手刀をキメる。軽くやったつもりだが、輝さんは小さく呻いて大人しくなった。やり過ぎたか…?

「…プロデューサーがいじめる。」
「いじめてないです。」
「たたいた。」
「……叩きましたね、軽く。」

やっぱりいじめたじゃないかーと今度はいじけ始めた。なんだよぅプロデューサーのばーかばーかと言いながら大きな身体を小さく丸める姿は、まるで小さい子供だ。というか、そんな姿を久しく拝んでいなかったので、やばい、きゅんとする。


MOON NIGHTのせいにしての発表以降、彼らは成人男性の魅力を押し出した内容の仕事が増えた。輝さんも最初の頃こそちょっと照れが入り少々ぎこちなかったものの、今は自然に男を魅せられるようになっている。
その度に私はよく分からない感情が沸き上がる。鼓動が高鳴るのに少しだけ寂しい、何故だろうか。


「あ、」

ランダム再生にして車内BGMにしていたスマホから、THE FIRST STARが流れてきた。自分の曲だからだろうか、むくりと輝さんが起き上がり、歌い出す。お酒が入っているせいだろう、ちょっとだけ調子っぱずれだ。


お酒が入って、べろんべろんになってしまう姿も、軽く叩いただけでいじけて拗ねてしまう姿も、こうやって音を外しながらも上機嫌に歌っている姿も、普段の仕事では絶対見せない姿だ。それを知っているのは、

「私、だけなんだな。」
「え、」

何の気なしに呟いたのに返事があって驚く。気がついたら、輝さんがこっちをじいっと見ていた。

「プロデューサー、どう、」
「さ、さあ輝さんもう少しでご自宅ですよ!」

その視線から逃れるように、ぐいとアクセルを踏み込む。そうでもないと、余計なことを言いそうだったから。
だけど、私の心臓は凄い勢いで跳ねていて、きっとそれに伴った表情をしていたと思う。ああ、お願いばれないで。





「到着しましたよー。」
「…おーう。」

地下の駐車場へ、車を停める。ここでエレベーターに輝さんを乗せ、自宅まで送り届ければ今日の仕事は全部完了だ。
運転席を降りて助手席へ回り、扉を開けたら中からのそっと輝さんが降りてきてくれる。思ったより歩けそうで何よ、り、…

近づいた瞬間、腕を引かれる。私がよろけた瞬間を逃さないように、抱き締められた。

「ちょ、輝さん。どうしたんですか、まだ酔ってます?」
「………酔ってねぇよ。」

耳元で、少しかすれた声がする。ぞわりと身体が震えた。嘘だ、今日だって、あんなに酔ってたのに。

「なあプロデューサー、…俺が、気づいてないって思ってるのか?」

だめだ。その先はだめだ。言ってはいけない。お願い言わないで。
そう思うのに口から言葉は出ず、声にならない吐息しかもれなかった。

「最初はさ、気のせいだって思ってた。前から仕事熱心だったし、だからよく見ているんだろうなって。でも、最近なんか表情がさ、」

違うの、気づいているか?

意地悪で言っている訳ではない、その、はずなのに、どんどん暴かれて追い詰められていく。そんな気がして、私は逃げるように輝さんの肩口に顔をうずめようとした。
だけど、抱き締める腕が、それを許してくれなかった。


「……ああ、その顔。すこーし目元潤ませて、ほっぺた赤くしてさ。」

ぐっと身体を引き剥がされると、見下ろされる。私の様子にくくっと小さく喉を鳴らす輝さんの表情は、今まで見た中で1番煽情的だった。


「だめ、です、わた、私は、プロデューサー、だから、」
だから、好きになっちゃいけないんです。そう言葉を続けようとした唇が、塞がれる。
そのまま手を後頭部に回されて、もう一度抱き寄せられる。触れられている所、全てが熱かった。


「…なあ、つむぎ。」

唇が離れると、視線が絡まる。頬を撫でる手が、少し震えてる。


「俺さ、…日付が変わったから、今日誕生日なんだ。」

知っている。だって、大好きな人の誕生日を、忘れる訳がない。

「だから、…帰したくない。」

そこにいるのは、私の知らない男の顔をした輝さんだった。


「なあ、奪っても良いか?」


答える代わりに、私の方から唇を重ねた。答えは、ひとつしかないから。



(それは、月夜のせいではないから。)