「あんたの、手料理が食べたい。」

それが、彼からのリクエストだった。





3月3日。世間ではひな祭りである日。
私にとってこの日は、特別な日であった。

そう、天ヶ瀬冬馬の誕生日である。



私と冬馬は恋人という関係である以前に、プロデューサーとアイドルという身分のため、なにかと忙しい。
だから、こういった特別な日は一緒にいる時間を作れる良い機会であった。

そして今年の誕生日、私は彼のリクエストをひとつ叶えてあげよう。そう思ったのだ。せっかくなら、1番喜ばれることをしてあげたいと。


そんな訳で、朝食を食べる冬馬へ誕生日にして欲しいことはあるかと質問をしたのだが、

「あんたの、手料理が食べたい。」
「……それだけ?」
「…おう。」
「え、良いの。そんな事で。」
「…自分で聞いておいてそれはないだろ。」

なんだよと言わんばかりの視線を向けられた。いやだって、私の手料理ってあなた、来るたびに食べてるじゃないか。

「…冬馬さんや、なんか、遠慮してる?」
「してない。…俺は、つむぎの手料理が食べたい。駄目かよ。」

そういう彼の表情は少し照れていた。
やばい、可愛いことを言ってくれるじゃないか。思わず頬が緩む。


「そ、っかー…私の手料理、手料理かぁ……なんか、そういう事を改めて言われると、新婚さんみたい。」
「……うっせ、」
「口が悪いですよとーまくん。で、何が食べたい?リクエストされたからには頑張るよ、私。」

にこにこしながら席を立って彼のかたわらで料理のリクエストを待つ。冬馬の横顔は、まだ赤いままだ。


「……なんでも、良いんだよな?」
「もちろん。あ、あんまり難易度高いとかは難しいかも。」
「だったら、」

そういうと、ぐいと腕を引かれ顔を寄せられる。

「俺が、この先もずっと食べたいって思えるようなカレー。作ってくれよ。」


そう告げると、さっきまでの照れは何処へやら。軽く頬に口付けて、にやりと笑ってみせる。形勢逆転、今度は私が真っ赤になる番だった。


「…わかった、絶対、唸らせてやるんだから。」


ああ、これは思ったより難しいリクエストを受けてしまったかもしれない。

それでも私は、彼の喜ぶ顔が見たいから、頑張るのだ。ちょろい?そんな事は知ってる。だって仕方ない。


私は、彼にべた惚れなのだから。




(いつもの場所で、いつもの幸せ。当たり前だけど、それはとても、愛おしい。)



Happy Birthday 天ヶ瀬冬馬
2017.3.3