「…なあ、食わないのか。それ。」
「え、?」
「だってつむぎ、さっきから眺めてるだけじゃねぇか。」


溶けるぞ、チョコ。そう言いながら、冬馬は食器を洗っている。その間も私はソファの上で、六花のホワイトチョコレートを食べることなく眺めていた。


「なんかさ、その…もったいなくて。3人からこんなに可愛いお返し貰えるなんて、思ってなかったから。」
「…そうかよ。」
「あれ、照れてるー?」
「うっせ!!」


ガチャガチャと食器が音を立てる。ごめん冗談と笑いながら声をかけると、分かってると言わんばかりに小さく頷いてくれたが、遠目から見ても耳が赤い。可愛いものだ、私の恋人は。


「ありがとね、お皿洗っちゃってもらって。」
「これ位、俺にやらせろよ。夕飯の礼みたいなもんだ。」


手を拭き終えた冬馬がソファへ向かってくる。私の家で夕飯を一緒に食べる時は、食後の片付けをするのが彼の担当になりつつある。律儀なものだ。


「…なあ、なんであの時泣いたんだ?」
「あの時?」
「チョコ、渡した時。」

腰掛けながら、質問される。

チョコを渡された時、私は思わず感極まって泣いてしまい3人を慌てさせた。大丈夫だよとなだめたのだが、どうも冬馬は気になっていたらしい。

「あー……実はね、このチョコ見て思い出したものがあって。」
「思い出したもの?」
「うん、冬馬達の衣装にあったでしょ、白の衣装の…。」
「ああ、ヴァイスジュピターか。…懐かしいの出てきたな。」


ヴァイスジュピター。Jupiterが961プロ所属の時に使用されていた白の衣装。普段の黒い衣装とは正反対のそれは、合わせてお披露目された楽曲『恋をはじめよう』と合わせて鮮烈なイメージを今も私の中に残していた。


「冬馬達の白って言ったら、私の中ではやっぱりヴァイスジュピターだったから、ホワイトチョコ見た瞬間にばっと脳内で結びついちゃってさ…。」
「だから泣いたってわけか。」
「……なので、私にとって手のひらサイズのヴァイスジュピター、なんてね。」


言いながら笑うと、冬馬は照れたような表情で「そこまで言われると、なんか選んだ甲斐があるな。」と呟く。

「でも、だからってあんたが眺めてるだけで、食べてもらえねぇのは…なんか癪だな。」

そう言うと、箱からひとつチョコを取り出し、私の口に半分ほど押し込む。油断していた私の舌を、チョコの甘さが包んでいく。

「ひょっと、とーま、これ結構とんがって、」

危ないでしょ、そう続けようとした言葉を、近づいてきた視線が、外に出たままのチョコ半分を咥えた口元が、ぱきっと割れる音が遮った。


「……ん、味見してなかったけど美味いなこれ。」

何事もなかったようにチョコをもぐもぐと食べている冬馬を尻目に、私は顔を真っ赤にしてソファへ沈み込んだ。ちょっと、ずるいじゃないか。それ、


「…なんか、間接キスみたいじゃない、今の。」
「は?!」


ぽつっと呟くと、冬馬が思い切りむせて真っ赤になった。…意図してなかったのか。若さゆえの勢いって凄いなぁとぼんやり考える。


「欲しいなら、言えばあげたのに。」
「……い、一応、つむぎにやったもんだろ。それを欲しがるってのは、…変だろ。」

っていうか、あんまこっち見るな。そう言いながら抱き寄せられる。
彼の顔は、ちょうど肩越しで見えない。こうやって恥ずかしがる辺り、まだまだ子供だなとは思うけど、言ったら絶対拗ねるので、口には決して出しはしない。


「…チョコ、ありがとう。」
「おう。」
「美味しかったよ。」
「おう。」
「……ヴァイスジュピターの話したけどさ、私は今の冬馬をちゃんと見てるよ。」
「…………おう。」


少しだけ、腕の力が強まる。そんな動作の一々が可愛くて、愛おしくて仕方がない。

だから私は、


「大好きだよ。」
「……知ってる。」


1番わかりやすい言葉で、今日も想いを伝えるのだ。



(今日の口づけは、きっといつもより甘い、)