終
セーターを選んだ自分を殴りたい。羊毛が傷口を抉り熱を出し全身を重く引きずっていく感覚がする。
痛く感じる程に鋭利な風が、今は何故か身体を冷やす味方となって私を包む。階段の終わりが見えてくる。
私は少し笑った。
「迎えに来てくれる人は、居ないんだね」
好奇心から裾を捲ってみると、骨の浮いた腹に赤くしみが見えた。
登りきった先の空は分厚い雲が覆い隠し、手が届きそうなところに靄がかかっている。無愛想なコンクリートを踏みしめて真っ直ぐ進む。
冷たい壁は私の腰の高さ程まで覆われて、そこにフェンスが突き刺さっている。
縁に足をかけて、腕に力を込めて体を持ち上げる。痩けた体が震える。
「っこれくらいなら」
骨が軋む音が聞こえて、焦って身を乗り出す。止められるものか。
縁にしゃがんで下を覗き込むと、夜闇に浮き上がるビル街が見えた。壁に規則正しく並んだ四角が、真っ白な電光を通してキラキラと輝いている。
「綺麗、なのかな」
高く聳えるフェンスの隙間につま先を捩じ込んでよじ登る。フェンスの外には数十センチしか余幅は無く、両足のつま先の間からどす黒く照らされた公園が見えた。
ぱっと足に力を込めて飛び出す。ぶわりと服が巻き上げられて、内蔵が浮き上がるような感覚がする。
私だってちゃんと成せるじゃないか。
「こういうのは心臓に悪いぞう!」
目を見開く。
曇り空に浮かぶ純白の光が紫の瞳を蕩かして此方に手を伸ばしている。
「ま、りん」
迎えに来てくれたの、と口を開こうとして、きつく抱きしめられて息が止まる。もう重くて動かない腕を彼の背にまわした。
「ねえ、リツちゃん」
こういうのは卑怯だとは思うんだけど、と前置きして彼は笑った。
「キミも僕と一緒に、永遠を過ごすというのはどうかな」
喉が震える。マーリンの顔がにじむ。
「あははははははは!ふふ、あはは、うん、うん!勿論!」
思いっ切り抱き着いて、濡れた頬を擦り付ける。
「決まりだね」
嬉しそうに声を上げた彼の香りが甘く甘く広がって私を埋め尽くす。
サイレンが鳴っている。
4
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唯繰