薬指に誓おう2
俺にはふたつ違いの姉がいる。昔からどこかぼんやりしていて知らない人がお菓子をくれるという如何にも胡散臭い誘惑にまんまと引っ掛かるような馬…危なっかしい奴なのだ。しかしそんな姉から『トイレの電球買ってきて。ついでに塩辛も』と電話が掛かってきた。このふたつにどんな接点があるのか甚だ疑問だが、それよりなにより何故泣きながらそんな電話を寄越したのか。疑問に思いながらもスーパーで目的のものをカゴに入れている俺は本当に出来た弟だと思う。
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姉の住むアパートまで行くとカップ酒を持った姉に出迎えられた。
トイレの電球を替え終えてから、啜り泣きながら塩辛をちびちび摘まんでいる不気味な姉の元へ行くとどういう事か尋ねてみた。答えは単純だった。
驚いたことに恋愛方面の悩みごとだったらしい。どうやら今まで遊ばれていると思っていた男に告白をされたらしく『どうやって断ろう…』とオロオロしていた。
付き合ってみればいいじゃないか、という俺の答えに『でもっ…』『だって…』とどうにも煮え切らない。なぜここまで拒むのか。別れるのはいつでも出来る、とにかく一度ちゃんと付き合ってみろ。変な奴だったら俺がぶっ飛ばしてやっからさ!そう言って笑うとだいぶ考えた後『…うん』と暗い表情のまま頷いた。
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まだ表情は堅いがだいぶ落ち着いてきた姉に明日も仕事だからそろそろ帰る旨を伝えると玄関まで見送ってくれた。
元気を出せと頭を軽く撫でるとこくりと小さく頷いた。その様子に前向きに検討しているのかと僅かながらも安心し、別れを告げ歩き出そうとした時だった。
前方からもの凄い勢いでこちらへ向かってくる人がいた。危ない、大の大人が廊下くらいゆっくり歩けないものかと呆れながら一体どんな奴だ顔を拝んでやろうと目に止めた瞬間俺は固まった。
なんでこの人がここに?うちの職場の上司と折り合いが悪いことで有名なあの六道骸だったのだ。目があった瞬間、睨み付けられ顎に衝撃が走った。当然受け身なんて取る間もなかった俺はコンクリートへと倒れ込んだ。
そして姉の部屋に酷い剣幕で乗り込んでいく六道骸の姿に全てを悟った。
ごめん姉ちゃん、いくら多少腕っぷしに自信のある俺でもあの人をぶっ飛ばすなんてことは死んでも出来そうにないです。
姉の部屋に上がり込んで行く六道骸の背中を認めたところで俺の意識は途絶えた。