茜色に染まる

目を伏せている女を抱えて俺は立ち尽くしていた。これは一体どういうことだ。 突然頭上から降ってきたこの女。起きることなくすやすやと眠り続けている。この状況はどこかで見たことがある。そうだ。日本のあの有名なアニメ映画のワンシーンではないか。しかし残念ながら俺はあんなに正義感溢れた少年ではないし、この女も少女と呼ぶには些か年齢を重ねているような気がする。まあそんなことはどうでもいい。いい加減腕も痺れてきたしこのまま放り出して帰ってもいいだろうか。顔を見られても厄介だ。うんうんと自分に言い聞かせてそっと道の端に下ろした。幸いにも今は夏だ。凍え死ぬことはねぇ。悪いがこれ以上関わるのはお互いの為にもよくねぇしな。最後に女の顔を拝んでこの場を立ち去ろうとしてぎくりと身体が強ばる。いつの間にやら女が目を開けていたのだ。

『私の王子様。やっと逢えたのね!』

ちょっと待てぇ!そんな薄ら寒いもんになった覚えはねぇ!!
ぎゅうぎゅうくっついてくる女を引き剥がそうとしたが、その細腕からは想像もつかない女とは思えねぇ腕力で締め上げられる。これは酔ったルッスーリアにどさくさに紛れて羽交い締めにされた時と同じくらいか?普通の女にこんな芸当が出来るとも思えねぇ。となれば他の組織の者か…。

「…てめぇ、どこのモンだぁ」

絡み付く女の腕から逃れ睨み付けるとぽっと頬を染めてうっとりと見上げてくる瞳。

『貴方のものです』

いや待て。俺はこんな女を所有した覚えはない。そもそもそんなことを聞いたんじゃねぇ!
再度引き剥がそうとしても『あっ…こんなところで……でも貴方が望むのなら……』と気恥ずかしそうに目を閉じてぽってりとした唇を付き出してきた。そういう意味じゃねぇ!…しかしどうしたものか。
目を閉じたまま何もされないことを不審に思ったのかぐいっと唇だけではなく顔ごと近づけてきた。

『やっと、出逢えた…』

ぽつりと落とされた言葉にどういうことだと訝しんでいるとはにかみながら口を開く。

『毎晩眠る前に神様にお祈りしていたんです。次に目覚めた時に私の王子様に会えますように!って。でもなかなかうまくいかなかったんです。毎朝自分の部屋の天井の染みを見つめる日々に落胆していたんですが、それが今日そんな虚しい日々に別れを告げこうして貴方と出会えた!想像していた王子様とはちょっぴり違っていたけれどでも大丈夫!貴方も素敵な王子様よ!』

話しているうちに興奮してきたのか一息でそう話を終えた女はなんと形容していいのか解らねぇ顔をしてじっと俺を見ている。

どうしろってんだ。

茜色に染まる夕陽を背に呆然と立ち尽くす俺はさぞかし滑稽なことだろう。

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