※塾講師と生徒
ジワジワと熱気を孕む空気にじわりと汗が吹き出してくるようだ。それに負けじと雑誌の記事を食い入るように見つめる。
例年ならば友達と海に行ったりお祭りに行ったりテーマパークに行ったりと遊び回っていたが今年の夏はいつもと違う。
人生初の恋人がいる夏なのだ。そうなれば自然と気合いも入るというもの。
海にも行きたいし、テーマパークにも行きたい。花火大会もあるし、旅行とかもいいかもしれない。雑誌の特集を見ながら悶々とやりたいことリストを頭の中で重ねては緩む頬を誤魔化すように用意していたレモネードに手を伸ばしてストローに口をつける。
さっぱりとしたレモンの酸味を蜂蜜がまろやかに仕上げている。しゅわしゅわとした炭酸が喉に心地いい。ぷかぷかと浮かぶレモンの輪切りにミントの葉が添えられていて見た目にも涼を堪能できる。
『先生、夏休みどうするんですか?』
雑誌とレモネードをテーブルの上に置いて先生の方を見ると相変わらずパソコンとにらめっこをしていた。ふう、と肩で息を吐いて画面から目を離してぎしりと音をたてながら背もたれに寄りかかる。
「もう嫌になりますよね。世間的には夏休みですが僕達は休み返上で生徒の相手をしないといけないんですから。夏期講習なんかもあったりして、考えるだけで今から憂鬱になります」
『………』
困ったように眉を下げて「休憩にしましょうか」と椅子から立ち上がりソファへと近づいてきた。
『そういえば去年はずっと先生と会ってたような気がする』
にこにこと笑いながら近づいてくる六道先生とプリントの山に恐怖したものだった。みっちりしごかれて、でも最後の授業で遅くなったりしたときは時々ご飯を食べに連れてってもらったりとかして。
見ていた雑誌のページを閉じて先生の方を見るとくしゅっと頭を撫でられた。
「去年は君が居たから楽しかったんですけどね」
改めて口にされると照れてしまう。そのまま頭を先生にぐりぐり押しつけるとくすくす可笑しそうに笑った。
「耳が真っ赤ですよ?」
『今日は暑いから、です!』
「そうですか?」
意地悪く口の端をあげてふにふに耳たぶをいじり出す。もうからかって!絶対顔をあげてなんてあげないんだから!
「ほら、謝りますから顔を見せてください」
『全然謝ってないじゃないですか』
「そんなことありませんよ、ほら」
こてん、とソファに寝かしつけられて目をぱちくり瞬かせていると意地の悪い顔をして笑っている先生がいた。
『あの、』
「ちゃんと身体で謝りませんとねえ。誠意が伝わりませんから」
『ちゃんと伝わりました!伝わったから、大丈夫です』
慌てて身体を起こそうとしてもやんわりと阻まれてしまう。
「それでは僕の気が済みませんから」
ゆるりと目を細めて近づいてきた先生の唇が軽く触れた。どうやら先生は誠意とやらを伝えることに集中してしまったようで諦めてそっと目を閉じる。暑さのせいか普段より幾分高い体温の掌で撫でられながらテーブルの上に置いていたレモネードの氷がカランと軽い音をたてるのを耳にした。