六道さんと新年を迎えてみた


僕はいつだって彼女にペースを狂わされてばかりだ。断ろうと思えば簡単に出来る筈なのになぜ自分がそうしないのか解らない。

『年、明けちゃいましたね』

不意に肩が軽くなった。彼女がじっと壁に備え付けてあった時計を見ながら肩に預けていた頭を持ち上げたのだ。どこか困惑と憂いの入り雑じった瞳をする彼女の表情が珍しくて思わず見入ってしまう。僕の視線に気づいたのか、はたまたただの偶然か、時計から視線を移動させた瞳とかち合うとニコリと口元に笑みの形を作って何事もなかったかのように装う。何故そんな風に取り繕おうとするのだろう。
結局、一旦は着替えを身につけたというのにまた脱いでしまうはめになったのは言うまでもなく、今も隣にあるしっとりとした肌を感じながら「そうですね」と頷いた。

『本当にそろそろ帰らないとみんな心配しますよ?』

そっと窺うように見上げてきた瞳に誘われるように腰を引き寄せるとバランスを崩したのか胸へもたれてくる。

「…君も、」

ぱちぱちと瞬かせて『わたし?』と繰り返している彼女を包み込むと驚いたように顔をあげる。

「…なまえも一緒に来ませんか」

耳元でそう囁けば彼女の瞳が大きく見開かれて、なんで、とこぼす。

『今日の六道さん、優しすぎてなんか気持ち悪い…!』
「失敬な」

思わず口をついて出た言葉なのだろう。しまった!と慌てて口を押さえているがもう遅い。むにっと頬を摘まむと うっとくしゃみを我慢している時のように中途半端に顔を歪めた。

「クローム達が何か用意してくれていると思います」
『ふぁい…っ』
「それを食べて初詣にでも行きませんか」
『…い、いんでふかぁ?』

めいっぱい開かれた瞳と口に思わず吹き出すと気を悪くしたのか摘まんでいた指を軽く叩かれた。離せということらしい。彼女の望むまま指を離すと大袈裟に身を震わせて両腕を擦りはじめた。

『本当にどうしたんですか、六道さん具合でも悪いんです、か…っ!』

ピシッと小気味いい音が室内に響く。遅れて彼女が額に手を当てて悶えるまでをゆっくりと見守った。

『ぐおっ…本気で痛い!』
「君が失礼なことばかり言うからです。ところで行くんですか、行かないんですか。返答次第じゃ…」
『行きます行きます行きたいです!』
「返事は一度。だったらさっさと支度なさい、僕より遅れたら置いていきますよ」
『は、はいっ!』

慌ただしく下着をかき集めだしたなまえの様子が可笑しくてひっそりと笑う。

たまにはこんな始まりかただっていいじゃないか。



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