六道さんと大晦日を過ごそう2


今のは一体どういう意味だったのだろう。彼には帰りを待つ人達がいる。あの3人を何より大切にしていることはそんなに付き合いは長くなくとも近くで彼らを見ていれば誰にだってわかる。そう私にだってわかるのだ。
だから今の彼の発言は私にとってとても信じられないものだった。普段の彼だったのならば着替えてさっさと出ていくであろうに。どうして。

「着替えないんですか?」

動けずにいた私に再度問いかけてくる。

『…まだここにいます』
「そうですか」

先ほどと同じ問答を繰り返したきりまた黙って私を見下ろしている。もしやこんなところで年が明けるのをひとりで過ごそうとしているのを憐れだと思われたのか。うわぁ。

初めは綺麗な彼に触れられるのが嬉しかった。何度かそういった機会があって、多少迷惑そうな素振りをされたがそれでも少し強引に押しきれば最後まで付き合ってくれた。その間注意して彼の周りに気をくばってみたが、他の女の影なんてものもなくて私だけがこの綺麗な人の一番綺麗な瞬間を知っているのかと思うと胸が高揚した。もっと綺麗な彼を見たくてそうしたらどんどん止まらなくなって次第に彼の心まで求めはじめていた。
なのに手に入れたのは彼の心なんかじゃなくてただの同情心だったというわけだ。最低だ。

『…私に気を使わなくてもいいです』

陰鬱とした気持ちにせめて彼がここを立ち去るまではと緩みそうになる涙腺に力を入れる。
すると少し驚いた顔をしてそれからふっと可笑しそうに笑った。

「僕が?君に?」

違うのか。それはそれで悲しいのだが。

『もう、いいですから。本当に…っ』

とうとう六道さんを見ているのも辛くなってきて視線を反らしたら頭に軽く触れてきた温もりにじわりと溶かされてしまったように溢れそうになる。

「どうしたんです?」

あ。ダメだ。
必死にシーツを睨んでいたら、顔を覗き込んできた六道さんと目が合った。それからまた同じ言葉を繰り返す六道さんの瞳にはいびつに顔を歪めた私がいた。

『まだ、一緒に居たいです』

背中に腕を回してぎゅうっとしがみつくと清潔な六道さんの匂いが肺いっぱいに満たされていくような気がして本当に、もう、なんか色々ダメになった。

「最初からそう言えばいいんですよ」

優しく抱き止め返してそれから初めて名前を呼んでくれた。


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