以前から少数だが確かに存在していて、去年の夏頃から少しずつ関連商品を目にする機会が増えたような気がしていた。私の中にわずかばかり眠っている女子力を擽ってくれる可愛らしい色合いはとても好感がもてたがお値段も他のものより気持ちお高いのでなかなか自分からは手が伸びにくいもの。嫌いではないけど歯みがき粉の味と一緒だと長年思っていた私もついにこれの美味しさがわかるようになってしまった。甘さのなかに吹き抜ける爽やかな清涼感。チョコとミントの絶妙なハーモーニー。チョコレート菓子でもアイスでもドリンクでも外れなしという奇跡の組合せ。そうチョコミントだ。きっかけは六道が手にしていたチョコミントドリンクだった。
『あ、それ…』
「これですか?」
『うん。おいしい?』
「ええ。好みは別れるかもしれませんが僕はわりと好きです。飲んでみますか?」
ストローを差して目の前に傾けられたカップ。
『いいの?』
「どうぞ」
・・・美味しかった。ココアの甘ったるさを打ち消すような清涼感のある後味に私は心を打たれた。どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。気づけば全てを飲み干した後だった。ずずっ、と底をかする音が虚しく聞こえてくる。どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。六道の呆れたような視線が私に突き刺さる。
『…ごめん、買い直してくる!』
「いいえ、結構です」
くるりと踵をかえして再び店内へ戻ろうとする私の肩を掴んでそのままずるずると引きずられていく。怒っているのかと六道の顔を見たがまるで気にもとめてないようで、それどころか機嫌が良さそうに見えた。一体どうしたんだ。何か良いことでもあったのか。
「今日は隣町で祭りがあるそうですよ」
『へ、へえ…』
「花火もあがるそうです。一緒に行きませんか?」
『…行かない』
「いか焼き食べたいんでしょう?」
『いらない』
「どうしてです?」
『お祭り行きたくない』
嫌だ嫌だと駄々をこねる私はまるで子どものようで。困惑している六道がじっと私を見下ろしてくる。
「人混みは苦手じゃなかったはずですよね?」
『…うん』
「体調を崩しましたか?」
『違う』
「去年はあんなにはしゃいでいたじゃないですか」
『六道とは行きたくない!』
しまった。反射的に答えた言葉がやけに強い拒絶を含んだものになって焦る。慌てて六道を見ると六道の目元がひくりと僅かに震えてすっと目を細めた。まずい、本当に怒らせてしまったのかもしれない。
「僕と行きたくない、とは?その祭りに僕と行って何か不都合なことがあるんですか?」
『・・・』
不都合なこと。それは口に出したら実現してしまいそうで出来れば言いたくない。
六道がイライラしているのがなんとなくわかる。
「答えろ」
びくりと六道の言葉に大袈裟に身体が震えた。
『ごめん!!』
気まずくなった私は逃げるように六道の元から走り去った。
*
「そう易々と何度も逃がすはずないでしょう」
『・・・』
うん。私もずっと六道から逃げ切れるなんて思っていなかった。でも逃走から5分で捕まるとも思わなかった。というより毎回頭を掴んで動きを封じるのをやめてほしい。じたばたともがきながら六道の手を引き剥がそうとしてみたがちっともうまくいかない。それどころかもがけばもがくほどより力が加わっていくような気がするのは何故なのか。
そして気がつけば状況は私が逃げ出したせいで5分前より悪化していた。
「僕と行きたくない理由を言いなさい」
怒りませんから。と続いた言葉に底冷えしてしまいそうな響きを感じてひやりと冷たいものが背中を伝う。これはきっと六道の気に食わないことを言ったら反故にするとかいう感じのやつだ。こくりと喉が鳴る。そして恐る恐る口を開いた。
『だって六道が、』
「僕が?」
『……また学校来なくなったら困るでしょ』
「は?なんですか、それ?」
『だって去年は来なかったじゃん!連絡もとれなくなったし。』
「はぁ。」
脱力した六道がぎりぎり掴んでいた手の力を緩めてかわりにぽんぽんとあやすように頭を撫でられた。
「そんな理由で…」
『そんな理由だけど私にはトラウマレベルなんだからね。心配してたんだから』
「クフフそうですね。君がトラウマになってしまうくらいその頃から僕のことが大好きだったんですね」
『なっ…!好きとか嫌いとかの話は今はしてないでしょう!!』
「そうですね。でも安心しました。てっきり、」
『なに?』
「いえ。なんでもありません。」
にこりと笑う姿はいつもの六道の顔に戻っていた。
「僕は君がいる限り居なくなるつもりはありませんから」
『ふ、ふーん』
「本当です」
『わかった、信じる』
「ありがとうございます」
機嫌を取るように抱きすくめられ、ちゅとおでこにぬるい感触がした。
「さて、これからどうしましょうか。」
考える素振りをしながら「どこかで休憩でもしますか?」と非常にいい笑顔で含みを持たせたことを仰る。
『……いか焼き、まだ買ってもらってない』
「わかりました。ではまた後ほど。君も色々準備があるでしょうし」
『うん!』
一度解散してから夕方六道が迎えにくることになった。