布団から飛び起きるとびっしょりと寝汗をかいていた。決してエアコンが故障したからだけではない。こういったことは既に一度経験している。こういう夢の時は六道もなぜか同じ夢をみている確率が高いらしく、そうなると次に予測できるのは奴がここに乗り込んでくるかもしれないということだ。今は顔を合わせたくない。大急ぎで湿ったパジャマを脱ぎ捨てTシャツと短パンに着替える。顔を洗いに洗面所へ向かっているとリビングから話し声が聞こえてくる。お客さんかな、なんて思いながらそろそろと足音を消しながら通りすぎようとするとお母さんから「あら、起きたの?お友達が待ってるわよ」という声を掛けられた。今日は遊ぶ約束はしていなかったがちょうどいい。家を出る口実にもなる。先に部屋で待ってるように伝えて急いで顔を洗いに行った。うう、シャワーもついでに浴びたいなぁ。汗でべたべたしてるし。でも待たせるのも悪いと思い洗顔と歯磨きをして部屋に戻ると「遅かったですね」という六道の姿がそこにあった。慌ててドアを閉めて一時の間。それから再び勢いよくドアを開けた。
『なんでいるの?!』
「君が部屋で待てと言ったんですよ」
友達って六道のことだったのか!お母さん紛らわしいよ。いや、そう言うしかないのはわかるけど。部屋の前で立ち尽くしていたら「入らないんですか?」と腕を引かれた。お邪魔します。いやいやここは私の部屋だ。落ち着こう私。
『ってなんでパジャマがたたんであるの?!』
「そこに脱ぎ捨ててあったからですよ」
『わあ、ありがとう。でも汗かいたやつだから後で洗おうと思ってたんだよね』
「エッチな夢をみましたもんね」
『そうそう、エッチな夢をみて汗ばんじゃって…ってぬおおおおっ!』
「急にどうしたんですか?」
顔を抑えて踞るとぽすんと頭に重みがかかる。
「ああ、思い出したんですね」
『ちがうちがうちがうっ!』
やっぱりか。やっぱり確実に今回も六道も同じ夢をみている。恥ずかしい。
「何でしたっけ?確か……僕といやらしいことをするために生まれてきたんでしたっけ?」
『あああああっ…!』
わざわざ口に出して言うなよおおおお!!ちらりと指の隙間から六道を見ると目が合ってにこりと微笑まれた。ずいぶん機嫌は良さそうでなによりだ。
「それより出掛けないんですか?ここで話すのは君も色々問題があるでしょうし。まあ僕はここでも構いませんが」
『構うわ!着替えるから出てって』
「おや、ひとりで着替えれるんですか?」
『あったりまえでしょー』
「ああ君は脱がされるのが好きなんでしたっけ」
『うるさいな!』
「後ろを向いてますから早く着替えてください」
『…うん』
微塵も部屋を出る気はないらしく、くるりと後ろを向いてスマホを弄りだした六道を確認してからそっとクローゼットを開ける。
『どうしよっかなぁ』
「僕はこれとこれの組み合わせがいいです」
『だよねぇ。んじゃ、これにしよう!……っておい!』
「どうしたんです?」
『後ろを向いてるんじゃなかったのか!』
「君がいつまでももたもたしてるからですよ」
呆れたように肩を竦める六道を尻目にクローゼットから取り出した洋服を掴むと、ふと六道の手にしていたスマホが目についた。
『そういえば、その携帯の中に私の微妙な写真がたくさん保存されていたのを思い出したんですけど、』
「…気のせいです。夢ですよ、夢」
そそくさとポケットにしまいながら「さあ、準備しましょうね」と不自然に話を反らす六道の言葉を今は信じよう。じゃないとどうにかなりそうだ。
『あ、出掛けるならお風呂入りたい。汗でべたべたしてるし』
「わかりました。では格好はそのままで着替えだけ持っていきましょうか」
『いやいや、今から軽くシャワーを浴びてくるって話だよ』
「は?だから僕が君の家で一緒に入るのはさすがに問題があるでしょうって話ですよ」
『もしかして、一緒に入るつもりなの?』
「はい。」
はい。じゃねぇよ!お前の中で何がどうしてそうなった!!うがーっと叫び声をあげそうになったところで「あとでアイス食べに行きましょうね」と言う六道に『六道まじイケメン!』と反射的に答えた自分にただただ絶望した。