夜の提督*

食事を終えた提督は今入浴の最中だ。その間に提督の寝室のベッドメイキングを済ませておかなければならない。秘書艦というのはどうしてこうも雑務が多いのか。これも職務とはいえいまだに納得のいかないことのひとつである。おかげで始めの頃は失敗続きだった料理も掃除もなんとか様になってきた。それでも提督からのダメ出しは今でも果てしなく続いているが。
毎回毎回提督は嫁をいびる姑なんですか!と声を大にして言いたい。ん?男の場合は舅だったっけ?まあ、細かいことはこの際どうでもいい。だって人間のことなんて私達にはさっぱりなんだから。
ばさりとシーツを広げてピンと張る。コインを投げたとき跳ねないといけないらしい。それに何の意味があるのかわからないが、毎回休む前に提督チェックが入るので手を抜くことができない。全く人間というのは本当に面倒だ。

シーツを整えていると部屋のドアが開く音がした。入浴を済ませたらしい提督が部屋に戻ったようだ。いつもかっちりとした軍服に身を包んでいるが、風呂上がりの今はラフな格好をしている。帽子に隠されている癖毛もふわふわと跳ねてつい目を向けそうになる。

「終わりましたか?」
『はい』

綻びそうになる口元を引き締めて部屋の端によると、ベッドに目を向けふむと一瞥していつものチェックが入るのかと思えばそのままベッド向かい腰を下ろした。
肩透かしを食らった気分だったが、今日は余程疲れているのかもう休むらしい。わりと上手く出来た日に限ってこうなんだから。まあいい、うるさい小言も聞かなくて済んだんだから。いつもより早く休むことが出来ると内心ウキウキになりながら頭を下げ部屋から出ようとすると呼び止められた。
まだ何かあるのだろうかと、浮き足だっていた気持ちが少しばかり下降する。落胆する気持ちを押し留めながら振り返ったところでぎくりと身体が強ばった。提督の瞳がいつもより艶を帯びていて私を真っ直ぐ見つめていた。緩く持ち上げられた薄い唇から続く言葉なんて容易に想像はついてしまう。

「さて、一日の最後の仕事です。すべき事は分かっていますね?」

ぐっと唇を噛みしめ私はその言葉に何かに背中を押されたように提督の元へのろのろと足を動かす。提督の側にたどり着きベッドサイドに立ち尽くしていると不意に腕を掴まれ引き寄せられた。
息をひとつ吐き出して意を決してベッドへ深く腰かけた提督の上に覆い被さるように膝をつく。
いつもは見下ろされているばかりなのに提督を見下ろすなんてちょっと変な感じだ。
ズボンに手をかけ下着ごと脱がせば既に硬度を持ちつつあるソレ。
こくりと喉を鳴らして恐る恐る触れる。幾度かこういった機会はあったものの料理や身の回りの世話とは違い慣れることはない。ぺろりと舌を這わせ丁寧に舐めて口の中に含み懸命に動かす。歯をたてないよう以前注意されたこともあった。提督の吐息が静かな部屋に響き私の鼓膜を震わせる。
ふと他の秘書艦ともこういったことをやっているのだろうかという考えが頭を過ったところでざわざわと胸の辺りざわつく。言いようのない感情に全身を支配されそうになってぎゅと目を瞑る。だめだ、今は考えないようにしよう。
数度瞬きを繰り返して気持ちを切り替えようとしたけど上手くはいかなくて、提督の方をそっと窺い見たところで目が合った。風呂上がりのせいかいつもより血色のいい肌にとろんと潤いを含んだ瞳。その瞳に全てを見透かされていそうで気まずくなって慌てて目をそらす。変に、思われたのかもしれない。ぽんと乗せられた手が優しく頭を撫でてくる。その温かさに泣きそうになっていると「もう、いいです」という言葉と共に身体を引き剥がされた。
私が他の秘書艦みたいに上手に出来ないから?
醜く歪んでしまいそうになる顔を手で覆う。せめて提督の前では泣かないようにしよう。でないと夜伽ひとつまともにできない上に面倒な秘書艦なんて他所に異動させられるかもしれない。ぎゅうっとさっきよりきつく瞼を閉じて荒くなりつつある呼吸を整えようと努めているとぽすっと背中に柔らかな感触が押し付けられた。一瞬その感触に気をとられていると顔を押さえていた筈の手が剥がされ提督が私を見下ろしていた。
ん?あれ、さっきまで私が提督を見下ろしていたは、ず…?ぱちくりと目を瞬かせていると「相変わらず、ひどい顔ですね」と吹き出された。んん?よく、状況がわからない。

「1日秘書艦業に勤しんだ君にご褒美をあげましょう」

ぼけっと提督を見上げていると見たこともないようないやらしい顔をして近づいてきた。

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