最近何かと話題に上がることが多くなり、情報番組でも有名チェーン店が日本に上陸したらこぞって特集されたりと耳にする機会も増えてきた気がする。
そして数年前に爆発的なヒットを飛ばし、もはやどのコンビニでも取り扱うようになった定番商品。そうコンビニコーヒーだ。
はっきり言って私はコーヒーの味などわからない。でも友達が大手コーヒーチェーン店からシフトチェンジしてくれたおかげで私の財布の打撃を減らしてくれた。感謝しなくてはならないだろう。
そうやって買う機会が増えたせいか普段でも何となく買うようになった。コーヒーを愛飲するなんてちょっと大人っぽい。例え苦いのが苦手で店員さんの目を盗んで砂糖を二つ入れてしまうことを差し引いても大人だ。
大人な私は今日もちびちびとコーヒーを啜りながら帰路につく。
「にやけながらコーヒーを飲んでるなんて不審者丸出しですよ」
そう、まさに大人な自分に気分よく酔しれているときに無粋な声が邪魔をする。
しかし大人な私は大人な態度で軽くあしらう。
「そういえば、ドーナツも取り扱うようになりましたよね。丁度頂いたんですけど君もひとついかがです?」
『きなこ!』
残念なことに高校に上がっても私と六道の腐れ縁は続いていた。
とはいっても、中学生の頃とは違い校内外でも行動を共にする機会がぐんと増えたのだ。
中学の時はあまり校内で話すこともなかったが、高校に入ってからは休み時間や移動教室での移動で一緒に行くようになった。
それに何もないのにこうして一緒に帰宅したり、お菓子を買ってくれたりと妙に優しい。
良いことが起こると必ずそれに見合った何かが起こるはずなのだが今のところそれは起こっていない。だから反動でとんでもないことがきそうで余計に怖い。
公園のベンチに座り差し出されたきなこドーナツの封を開けながらちらりと六道を見る。
「何です?」
黙っていれば、いや黙っていなくても多分格好いいんだろう。実際、高校に入ってからも六道に好意を持っている人は多いと聞く。もしかしたら他の中学から来ている人とかもいる分、中学生の時以上に増えているのかもしれない。
「…だから、言いたいことがあるなら言いなさい」
もぐもぐと六道を見ながら食べていると痺れをきらせたのかひょいっと食べかけのドーナツをとられた。
『まだ食べてるでしょうが!!』
「じろじろ見られながら無言で食べられたら不愉快です」
じろりと睨まれたが、こっちにだって言い分はある。
『六道は見られるのには慣れてるでしょ!』
「慣れていても不愉快には変わりません」
ふんと鼻をならして「で、どうしたんです?」と首を傾げる。
『高校に入ってからも人気がすごいなぁと』
「…どうも」
正直に話すとつまらなさそうに呟いた。
『告白とかいっぱいされてるんでしょ?』
「気になります?」
むしろ今六道の手の内にあるドーナツの行方のほうが俄然気になる。ゆっくりと膝の上に移動する六道の手につられて視線も動いてしまう。
『別に、、、』
「以前よりは減りましたけどね」
『いいよ、話さなくて』
「拗ねないでくださいよ」
『拗ねてなんか…』
ない。と言おうとしたところで、視界からドーナツが消えた。
ぐいっと顎を引かれ気づけば六道の顔が近くにあった。
『…っ、』
ちゅと軽く触れたかと思えば薄く開いていた唇から入ってきた舌がぬるりと口内で暴れだす。
最近の六道のキスは以前と違うような気がする。
どこがと聞かれてもうまくは答えられないが、激しいというか、胸の辺りがざわつくというか。
ただただ気持ち良かっただけの頃とは違って苦しく感じることがちょっとだけ多くなった。
六道の手がドーナツから離れ私の太ももに置かれたはいいが、触り方がいやらしく感じてしまうのは気のせいだろうか。
いい加減苦しくなってきたところでようやく口が解放された。酸欠で頭がふらふらしていると優しく抱き止められる。
これも最近恒例となりつつあるので、なるべくなら遠慮したいところだが治まるまでは身体に力が入らずぼうっとしてしまう。
「…いつか夜に会えそうな日はありますか?」
『…ない。うち門限あるから』
六道の肩に顔を埋めながらそう言うと「そうですか」と少し残念そうな響きを含ませた声。
『何かあるの?』
「だって君は夜景の綺麗なスイートルームで初めてはしたいと言っていたじゃないですか」
『……え?』
私、そんなこと言ったのか?言った覚えは・・・あった気がする。
確か初めて六道とちゅうしたときだ。
『そんなの覚えてたの…?』
「悪いですか」
ふいっと照れたように顔を背けた。
「初めては優しくしてあげれませんでしたから、次くらいは君の望み通り叶えてあげたかったんです」
その六道の言葉を聞いて急にすっと血の気がひくような感覚に、ここ数日の良いことの代償はこれだったんだとどこかで納得している自分がいた。震えそうになる声をふりしぼる。
『次、するの?』
「しますよ。」
にやりと笑う六道に自然と顔が強ばっていく。
それに気づいたのか訝しげに眉を寄せた。
『わ…たし、』
鞄を握りしめて立ち上がると、驚いたように目を丸くしている。
『六道とはしたくない。ごめん、ドーナツご馳走さま』
「 なまえ! 」
呼び止める六道の声を振り切って逃げるように走り出した。