お昼休みに友達とお弁当を広げている時だった。今日のおかずは大好きな唐揚げだからテンションは朝からうなぎ登りで今まさにクライマックスをむかえようとしていた。
「お借りしますよ」
突如背後に忍び寄ってきた六道に腕を捕まれ強制的に立たされる。その際私の口に入るはずだった唐揚げが箸の上を滑り床をころころと転がっていくのを悲しく見届けながら引きずられて教室を後にした。
*
連れられてきた先は生徒会室。
なぜ一年の六道が我が物顔で使用できているのかというと、入学して暫くしてから乗っ取ったからだ。どうやって乗っ取ったのかは普段の六道の動向を知っていれば自ずとわかるだろう。
それにしても、ついにこの日が来た。
あれからさりげなく六道を避けていたのに。
それより何より、あの日家についてからドーナツの残りを食べそびれていたことを寝る前になって思い出して激しく後悔したことも記憶に深く刻まれている。
「よくも今まで避けてくれましたねえ」
『あ、バレてる?』
「あんなにあからさまに避けられたら気づかない方がどうかしてますよ」
あんなに自然に移動教室の時は女友達とガールズトークを駆使して鉄壁の防御で挑み、放課後にいたってはチャイムが鳴ると同時に教室を速やかにして華麗に走り出し六道との帰宅時間をずらしていたのに鋭いやつだ。
「あれから考えてみたんですが、」
そこでいったん言葉をきり、じっと見つめられる。
「その、気持ち良くありませんでしたか?そりゃ初めては女性は痛いと聞きますし、僕も優しく出来なかったという心残りはありましたが、次はちゃんと優しくしますから」
『・・気持ちいいとか、悪いとかじゃなくて、』
そっと頭の上にのせられた手に反射的にびくりと震えると一瞬悲しそうに瞳を翳らせたが、優しく触れられる。
「では僕の気のせいでしょうか?僕以外の男なら誰でも良いみたいに聞こえたんですが、、、」
ギリッとボールを掴む要領で私の頭を掴んできた。最近仲良くしていたせいでうっかりしていたが、元々六道は暴力に訴えてくるタイプの人間だった。時間差かちくしょう。
ぎりぎり締め付けて脳みそがもうこれ飛び出してくるんじゃないかってくらい悲鳴をあげている。
六道の様子をちらりと確認すると口の端はつり上げられているが目の奥が全然笑っていない。
これは本気の目だ。
ぬおおおお、と叫びながらじたばたしてみたが力は緩むどころかますます強くなっていく。ちょっと待て。お前は私のことが好きだったんじゃないのか。好きな相手の頭頂部を鷲掴みにするなんて聞いたことないんだけど。
痛みでじわじわと薄い膜を張りはじめた目を六道に向けると六道の喉がこくりと震えた。ふざけんな、こんな時に興奮するとか何考えてんだ。六道。と呟くとようやく手の力が緩んだ。
陥没してないよね、私の頭。頭の形を確認して、それからまた締め上げられないように六道の両手をぎゅっと握りしめてずっと言わなければならないと思っていたことを口にする決心がついた。
『やっぱり私、六道とそういうことしたくない。キスももうしなくてもいいと思ってる』
大きく見開かれる瞳にばつが悪くなって自然と俯いていく。
『放課後も一緒に帰らなくてもいいし、六道が他の人と付き合っててもいいと思う』
「なまえ… 」
『ねえ、このままずっと一緒にいよう?なにもなくてもいいから、私はもう六道が突然居なくなるのは嫌だよ』
「なまえ… 」
ぴくりと手が動きをみせたので、ぎゅっと更に力を込めた。絶対この手は離しちゃいけない気がする。今度頭を掴まれたら陥没どころか破裂しちゃうんじゃないのか私は。だって空気がすごく重い。これはあれだ。たぶん六道を怒らせた。今まで散々気を持たせて待たせた結果がこれじゃあ怒られるのも仕方ないと思う。
これまでの六道との関係がなくなると思うと惜しくなって口にするのをずっと先伸ばしにしていたただの私の我が儘だ。
ふっと短く息を吐く気配がした。
「手を、離してもらえませんか?」
ビンタくらいで済んだらいいなあ。
ゆっくり六道の手を離すと困っているような雰囲気に後悔しそうになって取り繕おうとする考えを頭の中から振り払う。
「わかりました」
嫌われちゃったかな。
覚悟を決めてぎゅっと目を瞑って頬を差し出すと、輪郭を確かめるようになぞられた。
「予定は逸れましたが今ここで決着をつけましょう」
何言ってんだこいつは。
ゆるゆる目を開けるとうっすらと微笑む六道の視線とかち合った。
「満足させてあげますよ。」
本当に何言ってんだこいつ。