この胸の痛みはきっと

たぶん不整脈なんだと思う。
この歳でこんな悩みを抱えてる私ってなんて現代っ子!
日ごろの惜しみない自堕落な生活が災いしてこんな結果を招くだなんて・・・もう悲劇のヒロインじゃないの。
あーあー。どこかに絶望の淵で戦っている私を優しく慰めてくれるような人いないかなぁ・・・。例えば今が旬の苺をふんだんに使ったスイーツとかで。

『という訳で可哀相な私に苺のケーキを奢ってください』
「どの口でそんなことを言ってるんですか」

呆れた眼差しを燦々と降り注いでくるのはすっかりお馴染みの自称世界が嫉妬する美貌を持つ六道。

『だって最近わりと本気で心臓が痛いんだよ!私ものすごく可哀相!!最後に美味しい苺のスイーツが食べたいってわがままくらい叶えてくれる人を夢見たっていいでしょう足長おじさん!!』
「誰が足長おじさんだ!だいたい君の不摂生の賜物でしょう。高校生にもなって何言ってるんですか」
『だんだん痛くなる間隔が短くなってきてるし。多分もうそろそろドクターストップとかで食事制限とかされるんじゃないのかってビクビクしてるのになんて非道な言葉・・・!信じられない!』

そういうと鋭い目つきになって見下ろしてくる。
前まではそうでもなかったんだけど、最近六道に見下ろされるのがあんまり好きじゃなくなった。これもストレスの原因のひとつなんだろうか。
高校にはいってから六道は身長と魅惑の美貌に拍車をかけてきている。
入学一ヶ月で学校一のアイドルの座をものにしたツワモノだ。
そんなノリに乗っている六道を広がっていく身長差と同様にちょっと遠くに感じるようになって誇らしいような寂しいようななんともいえない感情が入り乱れたり乱れなかったりで別の意味で私の心臓は大変忙しい。
高校生にもなって友達が新しい友達に取られちゃいそうで嫉妬してるってなんなの。
小学生かよって思わず自分にツッコミをいれるくらい心が弱っている。これが5月病か・・・。噂には聞いていたけどまさか自分がかかるとは思ってもみなかった。
でも六道はそんな私の心情を察してか中学の時と変わらず私のことを気にかけてくれている。
そう思うとまたぎゅうっと心臓が痛んだ気がする。

「医者にかかっているんですか?」
『ん?いや、まだ自己診断だけど?』
「・・・心配して損しました」

すたすたとケーキ屋さんの前を通り過ぎようとする六道に慌ててすがりつく。
足長おじさんを逃しちゃケーキなんて贅沢品、誕生日か下手したらクリスマスまでありつけない。

『ほら、今だってきゅって、心臓がきゅうううって握りつぶされるくらい痛いのに!!薄情者!!!』

胸を抑えながら訴えかけると歩みを止めて心配そうに覗き込んできた。

「ちょっと見せなさい」
『ま、まさかこの場で心臓を差し出せと?!鬼か!いやぁああ鬼畜!!』
「・・・・」
『・・・心臓が痛いのは本当なんだよ』

ブリザードのような六道の視線に負けそうになって俯く。

『六道が新しい友達と楽しそうに話してる時なんて心筋梗塞起こしそうになるくらい痛くなるし』
「それって・・・」

そこでとんでもないことに気づいた。

『まさか・・・!』

はっとして六道を見る。
六道もまるでスタンダードな苺のショートケーキにするか苺ぎっしりのタルトにするか悩む時のように複雑な顔をして私を見ていた。

『もしかして、私、六道のこと・・・』

ちらりと六道を見ると、神妙な顔をして頷いた。

「はい」
『私、六道のこと苦手なのかもしれない。新しい友達と話してる時に痛くなるなんてまた女の子と別れるときにダシにされて恨まれたりすんのかなあって無意識に考えてたのかも。うーわー、よく考えたら昔から六道から迷惑被ってきてんだもんそりゃ心臓も痛くなるはずだわ」
「は?」
『そう考えると全部辻褄があうわー』
「どうしてそうなるんですか・・・全く君って人は、」

カクっと脱力したようにうなだれて長いため息を吐き出した後、じっと見つめられた。

『何よ?』

ふとおかしそうに顔を歪めてふわりと頬を挟まれる。

「今はまだそれでいいでしょう。いずれは自分で気づくでしょうし」
『何が?』

六道がまた変なことを言い出した。
最近六道はいつもこうだ。
一人で変なこと言って一人で悩んでいる。
キョトンと見上げれば、眉を寄せて不安そうに呟いた。

「・・・気づき、ますよね?」
『だから何がって聞いてるじゃん!勝手に一人で納得しないでよね』

口を尖らせているとふに、と軽く六道の唇が触れてきた。
唇に甘ずっぱい味が広がったような気がする。
そう、まるで苺みたいな。

「ほら、苺のケーキが欲しいんでしょう?行きますよ」
『あ、待ってよ』

くるりとケーキ屋さんの方へ方向転換した六道に腕を引っぱられて足がもつれそうになる。
このケーキに免じてしばらくは女の子達に叩かれようとネチネチ言うだけにしといてやろう。
ほんと、私ってば優しいー。

・・・だから今日は2つ頼んでもいいですか?

 

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