どうぞ、と差し出された上品な箱を受け取りリボンを解いて中を見るとカラフルな色合いの可愛らしいマカロンがお行儀よく並んでいた。
『どうしたの、これ。貰ったの?』
今日のおやつはリッチだなぁと思いながらどれにしようかと悩んでいるとラズベリーのマカロンが六道の指によって拐われた。
あっ、と思ってつられるように指の先を見ているとそのままふにと唇に押し当てられた。
食べろということなのだろうか。違っていてもおいしくいただくつもりではあるが。
口を開いて一口かじるとさくりとした食感の後にラズベリージャムの甘酸っぱさが口の中に広がり胸がきゅんと高鳴った。
ときめく味ってこんな感じなのかなぁ、なんて思いながら余韻に浸っていると六道の無粋な声が私の邪魔をする。
「……食べましたね」
『え?』
「行きますよ」
『は?えっ、ちょっと…、』
「ホワイトデーなんでしょう?」
すたすたと歩き出した六道がちらりと視線を落として忌々しそうに私を睨む。な、なんだよ。ホワイトデーと六道の不機嫌にどんな関連が…。そして更に私に何の関係があるのか。
ご機嫌ななめな六道に連れてこられた先はコンビニ。んん?あれ、なんかデジャヴ。駐車場に立ち止まったままで動く気配がない。どこかに行くんじゃなかったの?
気を紛らわすためにさっきもらったマカロンの箱を見つめながら六道に聞いてみる。
『もうひとつ食べてもいい?』
「…どうぞ」
イライラしている六道の腕を掴むとじろりと見下ろしてきた。
そのまま踵をあげて六道の唇にちゅうと自分の唇をくっつけると一瞬目を丸くしていたが、すぐに後頭部を掴まれて舌を捩じ込んできた。
ぬるりと擦れる舌の感触に少しだけやらしい気分になっていると、ちゅちゅと短く唇を啄まれた後ぺろりと唇をひと舐めして離れていった。
『なんで怒ってるの?私、また六道に変なことした?』
「……いいえ、君のせいじゃありません」
『じゃあ、先に帰ってもいい?』
「ダメです」
『なんで?』
「それは、」
珍しく言い淀む六道に首を傾げていると「六道くぅん!」と甘えるような声が聞こえてきた。え?なんだこの展開。なんだか経験したことがあるような…。
小走りに駆け寄ってきた可愛らしい女の子に突き飛ばされてよろけていると私がさっきまでいた場所に可愛らしい女の子がおさまっていて六道にすり寄っている。
それから鋭い視線を私の方に向けて睨まれた。
「この人が六道くんの…」
「ええ、だから君の気持ちには応えられません」
「そんな…!こんな地味でなんの努力もしてないような平凡な女なんかより私の方が六道くんのこと絶対好きだし、六道くんも私のことを絶対好きになると思う!だから六道くん目を覚まして!!」
「確かにこんなに地味で平凡で食い意地のはった自分の気持ちにいつまでも気づかない鈍い女でも、それでも僕は彼女を愛しているんです」
「…ッ!」
あ、愛…?なんか愛とか言われるとこそばゆいんだけど。
目の前で繰り広げられる大袈裟なやりとりに取り残されてしまった。
つーか、なんで六道はここぞとばかりに不満をぶちまけてるんだ。食い意地が張っているのは認めよう。美味しいものは好きだ。
しかし六道のことが好きかどうかはまだわからないのに…いやたぶん好きか嫌いかと聞かれたら好きなんだと思うんだけどそれを六道に見透かされていると思うとすごく恥ずかしい。
「六道くんと別れて!」
『え…、』
いつの間にか女の子の矛先は私に向いたらしい。じっと見つめられると困ってしまう。
わざわざそんなことを言いに来たのか。この場合私はなんと答えたらいいんだろう。
助けを求めるようにちらりと六道を見るとちょうど目があった。
「別れません。ね、なまえ?」
『う…ん…、』
これは合わせろということなのだろうか。
六道の言葉に同意するように頷くとキッと綺麗に整えられた眉がつり上がった。
「こんな女なんかに…!」
振り上げられた手に久々にきたかとぎゅっと目を閉じる。
しかしいくら経っても私の頬に痛みは走らなかった。そろりと瞼を上げて様子を窺うと六道が女の子の腕を掴んでいた。
「離して、六道くん!」
「それは出来ません」
「どうして、どうして私じゃダメなの…。」
泣き崩れながら六道にもたれ掛かる女の子にチクリと胸の奥が痛む。
たぶんこの人は私なんかよりずっと六道のことが好きなんだ。
私はこんな風に六道の事を人前で堂々と好きだと言えないし、六道と別れてくれだなんて乗り込めない。
ひとり場違いな空気に何だかここに居ちゃいけないような気がして二人から後退る。
「ごめん!先に帰る」
「なまえ!」
踵を返して六道と女の子を残して私は駆け出した。
*
コンビニの駐車場に六道達を残してきた私は一人でとぼとぼと歩いていた。
手にはしっかり六道から貰ったマカロンを握りしめて。割れてないといいなぁ。
「好きです、君が」
『私は……』
「…キスも」